たこ焼きぱたこの名前の魔法 第1話
第1話
世の中には人間によって食べ物の名前を付けられてしまう動物がいます。それらの動物はその瞬間から特別な力を持つのです。
二年前にサトウ家の一員となった赤毛の小さめ秋田犬「コムギ」もそうです。
コムギの元には毎朝大量の小麦粉がどこからか届けられます。その小麦粉を使って、コムギは駅前でパン屋さんを開いています。
パン屋さんの朝は早いです。けれど、コムギは早起きがとても嫌いでした。ふかふかのベッドの中にずっといたいといつも思っていました。でもそんなことをしていたら、これから電車に乗って通勤する人たちの毎朝の楽しみを奪ってしまうことになります。まだ少し寝ぼけ顔で入って来たお客さんが、熱いコーヒーとバターたっぷりのスコーンを頬張り、元気いっぱいの笑顔になって出ていくのを見送るのもコムギの仕事です。
そのために、今日の朝も早くからがんばります。
まずは隣で寝ている美子ちゃんのほっぺをペロッとなめ、それから鼻を軽くカプッとひとかじり。美子ちゃんは怒って起き上がり、コムギをつかまえようとします。そのタイミングでベッドから飛びおりれば、美子ちゃんは追いかけてきます。これで朝一番の美子ちゃんを起こす仕事は完了です。
美子ちゃんが学校に行く前に連れていってくれるお散歩の最中にもコムギは仕事をこなします。
住宅街を抜けて田んぼ道に入るとカラスたちが水浴びしていました。コムギをみつけると、一番近くにいたカラスが羽をばたつかせながら「カー」とひと鳴きしました。もう仕事を終えたようです。カラスたちの仕事は木の実集め。コムギのために毎朝パン屋さんにたっぷりの木の実を届けてくれます。コムギはお礼のしるしにしっぽをひと振りして通りすぎました。
水がはられた田んぼの水面に太陽の光が当たってキラキラしています。脇道にはシロツメクサが咲き誇り、その上をミツバチたちがせわしなく飛び回っています。どうやらハチミツ集めはまだ終わっていないようです。でも、コムギは心配していません。ミツバチたちが時間に遅れたことは今までに一度もないからです。コムギがしっぽをひと振りすると、それに応えるように一匹のミツバチがコムギの顔の周りをブーンと一周しました。
田んぼ道を外れて公園へと行くのがいつもの散歩コースです。
ここではスズメたちががんばってくれています。今日は何を届けてくれるのだろうかと、コムギはわくわくしながら進みます。
昨日はローズマリーでした。バターにローズマリーを混ぜて食パンに塗り、トーストしたら仕上げにハチミツをほんの少し。さわやかな香りのローズマリーは朝食にぴったりでした。
公園内のあずま屋に近づくと、スズメたちがいっせいに飛び立ちました。どうやら今日は真っ赤な木イチゴが届きそうです。あずま屋へと続く小道のフェンスには木イチゴのつるがからんでいて、美味しそうな実がたくさんなっていますから。
十時からのお茶の時間用に木イチゴのマフィンはぴったりです。お客さんが美味しそうに頬張る姿を想像して、コムギはわくわくしてきました。
散歩から帰ったコムギは朝ごはんを食べ、庭で遊んでいると見せかけて駅前のパン屋さんに向かいます。家の人たちには働いていることは内緒ですから。
こうしてコムギの一日はスタートするのです。
第2話に続く
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♦おまけ
裏庭になったブラックベリーが気になるこむぎとぱたこです。(3年前)
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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