ベスの青いアサガオ 第4話

こんにちは。

秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。

「ベスの青いアサガオ」は虐待された犬たち、または保護犬たちが一匹でも幸せになってくれたら、という想いを込めて創作しました。

 

今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

第3話がまだの方はこちらからどうぞ

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ベスの青いアサガオ 第3話

 

【 第4話 】

ベスはいつもボクの方を見ていた。

けれど、ボクがベスの方を見るとそっぽを向くし、そばに行って触ろうとすると決まって唸り声をあげて身構えた。

ベスがこの家に来て一週間も経った頃だろうか。

母さんも父さんも、もう飼い主は見つからないだろうと諦め、「ベス」と呼んで、犬に対して愛情を示すようになった。

その頃から、ベスは少しずつ変わって来た。

名前を呼んでも何の反応も示さないのは変わらないものの、ボクがベスの方を向いても目をそらさなくなったのだ。

近くに行って手を差し出すと、いつでも逃げられるように身構えはするものの、唸り声もあげなくなった。

この家には暴力を振るう人間はいないと、ベスにも分かって来たようだった。

なかでも一番の変化は、母さんに対しての態度だった。

毎日ご飯をあげていたのが母さんなのだから、最初に母さんになつくのは当然のことなのかもしれないが、母さんにだけは体を触らせるようになったのだ。

ボクも母さんに負けないように、毎日朝晩、散歩代わりにベスに話しかけた。

ベスはまだ散歩に行けるような状態ではなかった。

リードを付けて引っ張ろうものならば、叩かれるのではないかと恐怖に身を強張らせ、とんでもない声で叫ぶのだ。

けれど、ベスが散歩に出かけたがらないのは、ボクにとっては好都合だった。

通りを歩いたりして、もとの飼い主に見つかりでもしたら大変な事になってしまう。

だから、ボクはベスを無理に散歩には出さず、その代わりに話しかけてやる事にしたのだ。

ベスはアサガオの花が好きなようだった。

ボクがアサガオの花の植木鉢をベスの前に持っていくと、いつまでも飽きずにじっとそれを見ていた。

最初の朝に、向かいの家の青いアサガオをじっと見ていたように、

もしも、ベスに幸せだった時があったとしたら、その場面にはきっとアサガオがあったのだろう。

あの家にアサガオが無かった事だけははっきりしている。

「きれいだろ、ベス。おまえは本当にアサガオが好きなんだな。」

ボクの指先でかすかに揺れるアサガオの青い花びらを見つめ、

「そうなんだ。」

とでも言うように、ベスが上目づかいに一瞬ボクの目を見た。

ベスの身体はとても汚かった。

背中の毛はほとんど抜け落ち、赤いみみずばれが何本も浮き出ていた。

ところどころからは膿がふき出し、そばに寄ると何とも嫌な臭いが鼻をついた。

ベスは毎日自分の舌で傷口をペロペロとなめていたが、自分でなめる事の出来ない首の周りなどは、赤い肉がめくれあがって見るに耐えない有様だった。

あまりに痛々しい姿にボクは見かね、噛みつかれてもいいように、真夏の暑い日に厚手の長袖トレーナーにジーンズのズボン、それにゴム手袋をはめて、濡らしたタオルを持ってベスにむかった。

「ベス、タオルで拭いてキレイにしような。」

犬小屋の隣にある大きなサクランボの木の下で昼寝をしていたベスは、薄目を開けてボクの顔をちらっと見ただけで、飛び掛かる気配も、逃げる素振りも見せなかった。

ボクが差し出す手に身をまかせ、傷口をタオルでなでられる間中、じっとおとなしくしていたのだ。

その間ずっと身体を強張らせ、ベスが恐怖と戦っている事がゴム手袋ごしにも痛いほど伝わって来た。

ボクが叩いたりしないと言う事はベスにもわかっているのだが、今まで受けてきた虐待の日々から、触れられる事は痛めつけられる事と、身体が無条件に反応してしまうのだろう。

ボクがベスに初めて触れたのはこの時で、ボクの気持ちに応えてくれようとするベスの思いに、ボクは胸が熱くなった。

ベスは自分でも、幸せになろうと努力しているようだった。

 

それから毎日、ボクはベスの身体を拭いてやるようになった。

傷薬も買ってきて、みみずばれもほとんど治り、イヤな臭いもしないようになった。

この頃になると、ベスは拭かれている間、ずいぶんリラックス出来るようになっていた。

「気持ち良いだろ、ベス。」

と言うボクの問いかけに、前足をなめる作業を止めて振り向き、真っ黒なつぶらな瞳でボクを見つめる時もあったし、うたた寝の鼻息で返事をする時もあった。

「あら、気持ち良さそうね、ベス。」

母さんがベスの朝ご飯を持って来ながら、うたた寝しているベスに言った。

「ほら、あんたの大好きなアサガオの花も持って来てあげたわよ。起きなさい。」

母さんの声に、ベスは片耳を動かし、薄目を開けた。

「あいかわらず、食欲なさそうね。」

食器をベスの前に置きながら、

「そろそろ、散歩に連れて行ってやったらどうなの?  きっと運動不足なのよ。」

とボクに向かって母さんは言った。

ボクの心は騒いだ。

ベスを外に連れ出せない理由を、なんて言い訳しようか。

 

第5話につづく

↓↓↓

ベスの青いアサガオ 第5話

 

ぱたこに守られて幸せぼけしているこむぎの寝姿は、笑っちゃうくらい無防備です(笑)

ぱたこのへそ天も可愛いですが、こむぎのへそ天は美しいです(笑)。

 

 

今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

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