ベスの青いアサガオ 第5話

こんにちは。

秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。

「ベスの青いアサガオ」は虐待された犬たち、または保護犬たちが一匹でも幸せになってくれたら、という想いを込めて創作しました。

 

今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

第4話がまだの方はこちらからどうぞ

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ベスの青いアサガオ 第4話

 

【 第5話 】

「あんた、この犬知ってるの?」

塾の帰り道、あの家の前の電柱に貼られている迷い犬のポスターに、ベスの写真をボクは見つけた。

立ち止まって見入っていると、ボクがベスと初めて出会った時に立ち話をしていたおばさんが、いつの間にかボクの隣に来てそう言った。

ボクは心臓が止まるかと思うほどびっくりした。

もしかして、このおばさんはボクがベスを連れて行った事を知っているのだろうか?

ボクのことを犬ドロボウと思っているかもしれない。

そう考えると身体が震え出しそうだった。

ボクが黙っていると、おばさんは何か感じ取ったのか、首を縦に二度振った。

「たとえ居場所を知ってたとしても、ここの主人には知らせないことだね。どうせ、そのうち殺しちゃうようなことになるだけなんだから。」

「殺す?」

恐ろしい言葉に、ボクは全身に鳥肌がたち身震いした。

「そうだよ。この写真は一年も前のもの。

今じゃここの主人に殴られて、身も心もすっかりボロボロさ。

こんなに可愛い姿の面影はこれっぽっちもない、ガリガリの病犬だよ。

私たちもみんな、あの犬が早く逃げ出せばいいって、ずっと思ってたんだよ。

棒で打ちつけられる時の鳴き声と言ったら、そりゃすさまじいものだったからねえ。」

おばさんはいかにも恐ろしいと言った様子で、首をすくめて顔を小きざみに震わせた。

「何で自分の犬を殴ったりするんだろう。」

ボクはベスに出会った時からずっと思っていた疑問をおばさんに投げかけてみた。

「さあねえ?  それでも一年前まではちゃんとまともに世話してたんだよ。

奥さんが亡くなってからかねえ。

あの人もいろいろと辛いのよ。

お酒さえ飲まなければ、殴ったりはしないんだけどねえ。」

おばさんは、なんでも知っているといった口調でそう言った。

その時、この家の主人が帰って来た。

「あら、こんにちは。」

おばさんの挨拶に、

「こんにちは。」

と軽く頭を下げ、家の中へと入って行った。

ごく普通のおじさんだった。

ボクはおじさんにベスを連れて行った事がばれるのではないかと、恐ろしさで身体が震えそうになるのを必死にこらえ、急いでその場から立ち去った。

 

ベスは日増しに元気を取り戻すとともに、陽気さも取り戻していった。

ボクの姿を見るとしっぽを振るし、近寄れば身体をこすりつけて甘えてくるようになった。

ベスは、前のベスと同じように、ボクにはなくてはならない存在になっていた。

けれどそれと同時に、いよいよ、もう散歩に連れ出さないわけにはいかなくなってきた。

夏休みもあと一週間となったある日、ボクは覚悟を決めて、ベスのリードを小屋から外し、

「行くか?」

と声を掛けてみた。

ベスは顔を上げてボクを見、とても嬉しそうに身体を震わせた。

「よし!」

あの家とは反対方向に行けば大丈夫だ。

きっと見つかる事はない。

ボクはそれでも少しビクビクしながら、ベスを散歩に連れ出した。

 

(おはなしとは季節が違いますが、彼岸花が咲き誇る川沿いの遊歩道です。最後に動画あります。)

 

夕暮れの川沿いの遊歩道のベンチには、夕涼みの老人たちが何人か腰掛けていた。

そのうちの一人のおじいさんがベスのことをじっと見つめている。

ボクたちが前を通り過ぎる時も、ベスから目を離さない。

ボクは恐くなってきた。

あのおじいさんはベスのことを知っているのかもしれない。

この犬が、あの家からいなくなった犬だと気付いたのだろうか?

ボクの心臓は恐怖で張り裂けそうだった。

おじいさんの方を見ないように足早にその場を過ぎた時、背後でおじいさんが立ち上がる気配を感じた。

ボクはその場から駆けて逃げ出したい衝動にかられた。

「ベス、走るぞ!」

早口で言い、走り出そうとしたその時、おじいさんが口を開く方が数秒早かった。

「その犬をちょっと見せてくれんか。」

ボクの身体は固まって動けなくなってしまった。

おじいさんは着実に近付いて来る。

ゆっくりとした足取りで。

「おうおう、よしよし。」

おじいさんはベスの前に屈み込み、手に持っていたお煎餅を小さく割りながらベスに食べさせ始めた。

ベスはしっぽを振りながら、嬉しそうにおじいさんの手からお煎餅を食べている。

ボクは必死で言い訳を考えた。

おじいさんはどう思っているのだろう。

ボクが盗んだと思ってるだろうか。

それとも、ただ迷い犬を保護しただけだと思ってるだろうか。

焦れば焦るほど考えはまとまらず、ボクは全身に冷や汗が溢れ出すのを感じた。

「よう似とるわ。」

ボクは聞こえないふりをした。

きっとおじいさんはボクの口から白状させようとしているに違いない。

お煎餅の無くなったおじいさんの皺だらけの手を、ベスはペロペロとなめ続けている。

ベスはこのおじいさんを知っているのだろうか?

 

次回に続きます。

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ベスの青いアサガオ 第6話

 

ぱたこの名前の由来は「しっぽパタパタ」です!

らびこが亡くなって寂しさに耐えかねている時に見た茨城宿犬舎さんのインスタ。

可愛い子犬たちが元気に走り回っていました。

 

らびこの経験から、これから更に歳を重ねていく私には、大きい子の介護はもう難しいと考えていたので、

「秋田犬は飼ってはいけない」と心に決め、自分に言い聞かせていました。

けれど、お盆休みに家族が揃った時、みんなでらびこの写真を眺めながら思い出話をし、その流れで茨城宿犬舎さんのインスタにたどり着いてしまいました(笑)。

子犬たちのあまりの可愛さに、

「小さめの子なら大丈夫なんじゃない。」

という話になり、数日悩んだ末、長女にコンタクトをとってもらい、

「小振りな子犬がもしいたら」とお願いしました。

その時はいなかったのですが、茨城宿犬舎さんが探してきてくれた子がぱたこ!

パピーぱたこは「尻尾のパタパタ感」と紹介されていました(笑)。

そのキャッチコピーをそのまま拝借して『ぱた』と名付けました。

実は、ぱたこの本名は『ぱた』!

『ぱたこ』は愛称です。

 

チャームポイントの尻尾の使い方いろいろ!

川沿いの遊歩道です。

 

今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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