ベスの青いアサガオ 第6話

「ベスの青いアサガオ」は虐待された犬たち、または保護犬たちが一匹でも幸せになってくれたら、という想いを込めて創作しました。

 

こんにちは。

秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。

今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

 

第5話がまだの方はこちらからどうぞ

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ベスの青いアサガオ 第5話

 

【 第6話 】

「家にもシロと言う犬がいてな。こいつはシロによう似とるわ。」

ボクは黙って聞いていた。

「シロは今ではもうすっかり年をとってしまったが、たくさん子どもを産んでなあ。そこら中に貰われていったから、もしかしたら、こいつもシロの血をひいとるのかもしれんなあ。」

「そうなんですか。」

おじいさんは目を細めながら、一生懸命ベスの身体を頭から背中へとなで続けた。

ベスは、おじいさんの手にもうお煎餅が無いとわかると、げんきんなもので散歩に戻ろうと歩き始めた。

ボクはおじいさんに軽く頭を下げると、ベスの後に続いた。

ベスを知っていたわけではない。

単なる犬好きのおじいさんだったのだ。

ボクはホッと胸をなで下ろした。

 

ベスはとても楽しそうに尻尾をピンと上に巻き上げ、意気揚々と歩いていた。

薄紫の夕焼け雲に向かって歩くベスは、出会った頃のベスとは全く別の犬だった。

肉付きが良くなったのはもちろんの事、目の輝きが全く違っていた。

あの時のベスの目は死んでいた。

ベスは時々ボクの顔をチラチラと見ながら歩く。

その顔は本当に嬉しそうで、笑っているようだった。

「走るか、ベス!」

夏も終わりに近付いたとはいえ、まだまだ暑い。

ほんの少し走っただけで、ボクは全身に汗をかいてしまった。

ベスも息をきらせていた。

公園の水飲み場で水道の蛇口をひねってやると、ベスは本当に美味しそうに水を飲んだ。

 

https://youtu.be/9TwEIA60EUs

水道から落ちてくる水の粒を、長い舌で器用に受け止めてなめた。

「美味しいか?  ベス。」

ベスは水を飲むのを止め、尻尾を振った。

「チビ!」

後ろからの呼びかけに、ベスは振り向いた。

ベスの目線を追ったボクは、不意の出来事に身動きがとれなくなってしまった。

そこには、ベスの本当の飼い主が立っていたのだ。

ベスは身体を小さくし、ボクの後ろに逃げ込んだ。

「その犬は、どうしたんだい?」

「えっ?!」

「家のチビだと思うんだが……。」

「ボクのベスです。」

ボクは出来るだけ平静を装ってそう言ったが、頭の中は真っ白だった。

「チビ、おいで。」

おじさんはボクの言葉など聞こえなかったかのように、腰を屈めて片手を前に差し出した。

「ボクのベスです。」

ボクはベスの身体を隠すようにして、もう一度声を張り上げて言った。

おじさんは、この犬がチビであるということに余程の自信があるのか、不愉快さを隠そうとはしなかった。

それも全く当然のことだろう。自分の飼い犬を見間違えるなんてことは、まずありえない。

「君はこの犬をどうしたんだい?  拾ったのかい?」

おじさんはベスを呼び寄せることを諦め、ボクの方に視線を移した。

「ボクのベスなんです。」

おじさんに見つめられ、ヘビに睨まれたカエルのようになったボクは、ただそう繰り返すしかできなかった。

これでは自分が動揺していることを証明しているようなものだと分かっていながらも、緊張と恐怖から他に言葉が思いつかなかったのだ。

「それじゃあ、この犬はもともと君の犬だったと言うのかい?  そんなはずはないだろう。」

おじさんは半ばバカにしたように、苦笑いを浮かべながら言った。

「一月ほど前に家から犬がいなくなったんだよ。ずっと探しているんだがね……。君の連れているその犬が、いなくなったチビにそっくりなんだよ。尻尾の巻き方とか、耳に入った薄茶の模様なんかが。」

「でも、ボクのベスなんです。」

ボクはどうしても譲るわけにはいかず、そう言い張った。

「そうかい。じゃあ、君のベスは家のチビの双子の兄弟なのかもしれないな。」

おじさんは諦めてくれたようだった。

ボクは勝ったと思った。

これで堂々と、誰に対しても「ボクのベス」と言うことが出来る。

なんと言っても、本当の飼い主がそう認めたのだから。

けれど、ほんの少し心も傷んだ。

去って行くおじさんの後ろ姿が寂しそうだったから。

棒でベスを打ちつけていた人とはとても思えなかった。

何はともあれ、ボクは嬉しさを隠しきれず、ベスと散歩道を駆け出した。

「やったね!  ベス!」

 

ずっと川沿いを走って行き、橋を渡った所でベスは足を止めた。

そこは大きな古びた洋館の前だった。

門の横に「動物病院」という看板がかかっている。

そして、そこから始まるフェンスには、一面にアサガオのつるが巻き付いていた。

ベスはこのアサガオの葉に惹きつけられているようだった。

「ベスはアサガオが大好きなんだよな。

残念だったな。アサガオは朝しか咲かないんだよ。

アサガオの季節が終わる前に、また朝早く一緒に見に来ような。

青いアサガオだといいな。」

ベスはしばらく、そこから動こうとしなかった。

 

すべては上手くいく。

ボクはそう思いこんでいたけれど、事はそんなに簡単には済まなかった。

翌日の夕方、ボクとベスが散歩に行こうと門を出たその時、おじさんと出くわしたのだ。

おじさんは昨日ボクたちの後をつけて来たのか、明らかにここがボクの家と知っていて待ち伏せしていたようだった。

今日のおじさんは、昨日のおとなしそうなおじさんとは別人だった。

顔を赤らませ、全身から怒りがみなぎっていた。

息は酒くさかった。

 

次回に続きます。

 

動物病院はこむぎにとっては怖い場所ですが、ぱたこにとっては楽しいお出掛け場所です(笑)。

久々のドライブの行き先は獣医さん。

目的は予防接種!

終始、ぱたこは嬉しくてハイテンション。

それに反してこむぎは怖くて震えてました😁

行く途中、気持ちが前のめりになり過ぎてシートに挟まり、抜けなくなってしまったぱたこの為に停車して救出しました😅

 

お出掛け先で室内に入るのが怖いこむぎ。

動物病院に入るのだけでも恐怖以外の何ものでもないのに、

手術をして痛い思いをし、更に一人でお泊りさせられたので、

病院は嫌いでいつも震えています。

 

今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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