ベスの青いアサガオ 第7話
「ベスの青いアサガオ」は虐待された犬たち、または保護犬たちが一匹でも幸せになってくれたら、という想いを込めて創作しました。
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
第6話がまだの方はこちらからどうぞ
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【 第7話 】
ボクはおじさんを無視して、そのまま散歩に出かけようとしたが、おじさんに腕をつかまれてしまった。
ものすごい力だった。
「やめて下さい。」
ボクはおじさんの手を振りほどこうとしたが、だめだった。
「その犬がチビだってことは分かってるんだぞ。」
「昨日も言ったじゃないですか。この犬はベスです。」
「チビだ。」
「じゃあ、チビって呼んでみて下さいよ。行くはずないんだから。」
ボクは自信を持って言った。
「よし、じゃあよく見てろよ。」
おじさんは鼻で笑いながら言った。
「チビ、来るんだ。」
脅すような恐ろしい低い声の命令に、ベスは首をすくめ、全身を緊張させた。
ボクは行くはずがないと思った。
ボクとベスとの日々は、まだわずか一ヵ月程度だったけれど、深い信頼関係で結ばれていると信じていた。
それに、あんなに酷い目にあわされたおじさんの所に、自分から進んで戻るなんてことは考えられなかった。
けれど、ベスはあまりの恐怖のために、ボクの存在を忘れてしまったようだった。
命令に逆らえばまた酷い目にあわされる。
ベスは恐る恐る、一歩、また一歩とおじさんに近付いて行った。
「ほらみろ、こいつはチビなんだ。ヒモを寄こせ!」
おじさんは、ボクからベスのリードを奪い取ろうとした。
「たとえチビだとしても、こいつはあんたには渡さない!
棒で殴られることが分かってるのに、渡したり出来るもんか!」
ボクはベスが打ちつけられている姿を思い出し、涙があふれて来るのを感じた。
そうだ、絶対に渡したりなんか出来ない。
ベスを二度とあんな目になどあわせるもんか。
おじさんは事実を言われ、ますますいきり立ったようだった。
「なんだと、オレがそんなことするもんか!
分かったぞ! お前、そんなこと言って、この犬がどうしても欲しいから盗んだんだな。
そうだろ? チビが自分から逃げ出すなんておかしいと思ったんだ。
そうだ、お前が盗んだんだ。」
「違う! ボクは盗んでなんかない。
ボクはクサリから放してやっただけだ。」
おじさんは不気味な笑いをニヤリと浮かべた。
「やっぱりそうか。これでこの犬がチビだと認めたわけだ。」
おじさんはボクの不意をつき、一瞬のうちにベスのリードをボクから奪った。
「チビ、行くぞ。」
おじさんはベスを引きずりながらスタスタと歩き始めた。
「ちょっと待ってよ! あんたには犬を飼う資格なんかないよ!」
ボクは後を追いかけながら叫んだ。
「資格もくそもあるもんか! こいつはオレの犬なんだ。
犬泥棒は黙ってろ!」
犬泥棒と言われ、ボクは何も言えなくなってしまった。
たしかにそうなのだから。
けれど、これ以上このおじさんには何を言っても無駄なようだった。
お酒の酔いが醒めるまでは。
ベスはボクの方を振り返りながら、無理矢理おじさんに引っ張られて行った。
ボクはベスの瞳をじっと見つめ、心の中で誓った。
必ず助けに行くからな。
おじさんが眠ってしまうまでの間の我慢だから、
頑張ってくれよ、ベス。
ボクはいろいろ考えた結果、明日の早朝にベスを助けに行くことに決めた。
初めてベスを自由にしてやった日と同じように。
ベスがいなくなったので母さんが心配した。
夕飯の時、ボクは母さんにありのままを話した。
「ユータの気持ちもわかるけど、黙って連れて来てしまったのはまずかったわね。」
母さんはボクの話を聞き終わると、お茶を飲みながら言った。
「でも、あのままじゃ殺されちゃうと思ったんだよ。放っておけなかったんだ。」
ボクは話しているうちに、だんだん不安になってきた。
もしかしたら、ベスは今まさにあの棒で打ちつけられているかもしれないのだ。
そう考えると、いてもたってもいられなくなった。
ご飯を急いでかき込むと、ボクはベスの様子を見に行くことにした。
辺りはもうすっかり暗い。
自転車のライトの先にあの家が見えて来た。
電柱にはまだ迷い犬の紙が貼ってある。
ベスの叫び声は聞こえてこないので、今は殴られていないと分かり、ひとまずはほっとした。
けれど、家に近付いて犬小屋を覗いて見ると、そこにベスの姿はなかった。
次回に続きます。
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どんな飼い主でも犬にとってはその人が一番!
巡り合ったからには幸せな一生にしてあげたいですね。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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