ベスの青いアサガオ 第9話(最終話)
「ベスの青いアサガオ」は虐待された犬たち、または保護犬たちが一匹でも幸せになってくれたら、という想いを込めて創作しました。
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【 第9話(最終話) 】
身も心もくたくたに疲れ、ボクはベンチに座ったまま眠ってしまっていたようだった。
目が覚めた時にはセミが鳴き出していた。
町はまだ静かなので六時前だと思う。
朝の空気は気持ち良く、希望をはらんでいた。
何だかベスを見つけられそうな予感がして、明るくなった町をもう一度探してみようとボクは立ち上がった。
その時、足元に暖かくて柔らかい、懐かしい感触がよみがえった。
まさか!
ボクはゆっくりと視線を下におろした。
すると、そこには探し求めていたものがいたのだ。
「ベス!」
ボクは再びベンチに座り、すぐにベスを抱き上げた。
ベスは背中から血を流し、白い毛には血が固まってこびりついていた。
おじさんの言った通り、足も痛そうだった。
「ベス、ごめんな。」
ボクはあふれて来る涙を必死に堪えた。
ベスは痛みと疲れで思うように動かない身体を一生懸命支えながら顔を上げ、ほっぺを伝うボクの涙をなめた。
「ごめんな、ベス。」
ベスはまん丸の優しい瞳でボクをじっと見つめ、
「クウゥン」
と息をもらした。
「そうだ! すぐそこのアサガオの動物病院に行こう。もう少しの我慢だからな。」
抱いていると、ベスの息の荒さが痛いほど伝わって来た。
ボクはベスをしっかりと抱き抱え、病院へと向かった。
歩いている最中にもベスの息はさらに荒くなり、身体もぐったりとして来た。
「ベス、もう少しだから! 頑張って!」
ボクは足を速めながら言った。
「絶対に死ぬんじゃないぞ!」
涙で喉が詰まり、声にならない声で励まし続けながら歩いた。
橋を渡りきると病院だ。
フェンスに絡まったアサガオは満開だった。
青いアサガオだった。
「ベス、ほら、青いアサガオだよ。見てごらん。」
ボクはベスがアサガオを見られるように、向きを変えてやった。
ベスはゆっくりと瞳を開き、青いアサガオの花をじっと見つめた。
ベスの真っ黒な瞳に、青いアサガオがいっぱい映っていた。
「きれいだね、ベス。」
ベスはまるで「うん」とでも頷くように、ボクの顔を見た。
門の中に入りチャイムを鳴らすと、庭の奥から白い老犬がゆっくりと出て来た。
ベスにそっくりだった。
老犬はボクの腕の中のベスを見ると、いかにも切なそうな鳴き声をもらした。
その声に応えるかのように、ベスの呼吸がさらに激しくなった。
ボクは屈んで老犬の前にベスをさし出した。
老犬はベスの鼻先の匂いをかぐと、背中の傷口をなめ始めた。
いたわるように。
愛おしむように。
ベスは気持ち良さそうに、安心しきって身を任せていた。
その時、玄関のドアが開いた。
中から出て来たのは、川沿いのベンチでベスにお煎餅をくれたおじいさんだった。
「シロ、やっぱりお前の子どもだったか。」
おじいさんはボクからベスを受け取りながら、老犬に向かって優しくそう言った。
翌朝、ベスは元気を取り戻し、ボクの腕の中に戻って来た。
足もひどい打ち身ではあるけれど、折れてはいなかった。
ただ、身体の傷よりも精神的なショックの方がかなり大きかったようで、穏やかな気持ちを取り戻すまでにはもうしばらく時間がかかりそうだった。
病院から帰る時、あの老犬と満開の青いアサガオに見送られ、ベスの瞳は微笑んでいた。
ボクはおじいさん、つまり、ベスの主治医であり、産まれた家のご主人でもあるおじいさんに、アサガオが種をつけたら分けて貰えるように約束をした。
来年の夏には家の庭も青いアサガオの花でいっぱいになることだろう。
ボクはベスがそこで走りまわる姿を思い浮かべ、顔をほころばせた。
ベスは今、リビングに特別に敷かれたタオルケットの上で気持ち良さそうに眠っている。
まだ時々傷口は痛むようだけれど、ボクのそばで日に日に元気を取り戻していっている。
もう絶対に離さないから。
大好きだよ、ボクのベス。
(終わり)
最後までお読みいただきありがとうございました。
みんな、穏やかで楽しい毎日が過ごせますように!
強過ぎる愛も考えものです💦
愛犬の気持ちも考えてあげましょう(笑)。
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