プリンス・ハエタロウ 第1話
ハエ王国のプリンスが主人公の、クスッと笑えるナンセンスなお話『プリンス・ハエタロウ』を今回から新連載します。
犬は登場しませんが、楽しんでいただけると嬉しいです!
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
【 第1話 】
まったく西岡のヤツ、むかつく。
ボクは今日の学校での出来事を思い出していた。
考えれば考えるほどはらわたが煮えくり返ってきて、ちっともネットゲームに集中できない。
ボクは一週間前から学校のみんなに『ハエ』と呼ばれている。
いや、みんなってわけじゃない。
正確には西岡とその仲間たちだ。
西岡というのは四年一組のクラスメイトで、チビのくせに生意気なヤツだ。
そいつが今日から給食当番で、ボクの机を飛ばして牛乳を配るから、
「おい、西岡、ボクにもくれよ」
って言ったんだ。
そうしたら西岡のヤツ、
「西岡とはなんだ。西岡様と呼べ。ハエのくせに生意気だ」
なんて言いやがった。
マジ頭にきた。
頭にきたけど、ボクは何も言い返せなかった。
その時、突然ボクのパソコンが真っ暗になり、画面に不思議な文字が浮かび上がった。
――ハロー! アイム ハエタロウ.
ボクは意味不明な文字を呆然と見つめた。
――アンニョンワセヨ! ナヌン ハエタロウ.
再び打ち出された文字に、ボクはもう一度首を傾げた。
「アンニョンワセヨ? どっかで聞いたことあるなぁ? 何語だっけ?」
ボクが腕組みして考えこむと、耳もとを一匹のハエが横切った。
無意識に手で払い除けると、
――乱暴はよしてくれたまえ!
また、真っ暗な画面に文字が打ち出された。
――やあ、ボクはハエタロウ。
「ハエタロウ!?」
変な名前にボクは吹き出してしまった。
――イエス、アイム ハエタロウ.万物共通の言語であるイングリッシュを理解できないなんて、人類の子どもはまだまだだねぇ。
「万物共通? 人類?」
――君はいったい何者なの? どこからアクセスしてるの?
ボクは素早くキーボードに打ちこんだ。
――打ちこまなくても大丈夫。声に出して話せばボクは理解できるから。例えそれが君の国の言葉である日本語であったとしてもね。
「誰なの、君は?」
ボクは周りを見回しながら大きな声で言った。
――だから、さっきから何度も言ってるように、ボクはハエタロウ。ハエ王国の王子、プリンス・ハエタロウさ。ほら、今君のパソコンのエンターキーの上にいる。
ボクは画面の文字を読み終わるや否や、視線をエンターキーへと滑らせた。
びっくり!
そこには丸々と太った大きなハエが一匹!
ボクは素早く手を動かし、そのハエを捕まえようとした。
――乱暴はよしてくれって言ったじゃないか。だから人間は嫌いなんだ。
ハエ王国のハエタロウ王子は、ボクの顔の周りを羽音をヴィーヴィー言わせながら飛び回った。
――ボクはハエーライド・ハエタロウ王子。最近の日本は食べものが少なくて住み難いから、なんとかして欲しいと頼まれて、王子自ら参上した。
「食べものが少ない? いったい誰がそんなばかげたこと言って、ハエなんかに助けを求めたのさ?」
――「ハエなんか」、とは失敬なヤツめ。それが王子に対する言葉遣いか。これがハエ王国内でのことであれば、おまえは即刻打ち首の刑だぞ。
頭にくる。
こいつハエのくせに西岡みたいなこと言いやがる。
「残念だったね、ここはハエ王国なんかじゃない。人間の世界なんだ。今、ハエ叩き持ってきて、お前のほうをぶっつぶしの刑にしてやるから、ちょっと待ってな。」
ボクが立ち上がろうとすると、
――まあ、ちょっと落ち着きたまえ。最後まで話を聞かなくて損をするのはお前のほうだぞ。
と、もの凄いスピードで文字が浮かび上がった。
「へー! ハエのくせに偉そうなこと言うじゃない。」
その時、ボクの右耳の中がほんの少しチクッと痛んだ。
――お前はもう立ち上がれない。
「へっ、ばか言うな。」
ボクはあまりのばかばかしさに半分呆れ、立ち上がろうとした。
が、立ち上がれない。
体が動かない。
立ち上がるってどうするんだっけ。
まず、体を前に倒して、次に腰を浮かす。
頭では分かっているのに、体がいうことをきかない。
それどころか、自分の意思に反して思わぬ行動をとっている。
エンターキーへと手を伸ばし、ハエタロウを手のひらの上に乗せたのだ。
「うわっ! 気持ちワル。人の手に勝手に乗るなよ。」
手を振ってハエタロウを落とそうと思うんだけど、ボクの手はまるで他人の体のように、ボクの命令を無視してびくとも動かない。
――そんなこと言っていいのかな。
文字が打ちこまれると同時にまた右耳がチクッとし、ハエタロウを乗せた右手がどんどん上に上がってきた。
「何しようっていうんだよ!」
ボクは半ば叫び声にも似た声を上げた。
――挨拶代わりにキスでもしようじゃないか!
「うわっ! やめろ!」
――それじゃ、話を聞くか?
「聞くよ、聞く。聞くからキスだけはやめて!」
――お前の名前は?
「エイタ」
――エータ? それだけか? 苗字はないのか?
「山羽エイタ」
――ヤマ・ハエータか。ハエータとは立派な名前だ!
「そんな呼び方するな! エイタだよ!」
――ハエータのが百万倍良い名前なのに、拒否するのならご要望通りエータと呼ぼう。エータ、もう分かっているだろうが、お前の体はこのボク、ハエタロウ様によってコントロールされている。
「コントロール!?」
――右耳が時々チクッと痛むだろう。さっきエータの顔の周りを飛んだ時、右耳の中にコントロール装置を打ちこませてもらったのさ。だから、ボクがリモコンのボタンを一つ押せば、エータはボクの思い通りに動くってわけだ。
すぐには信じられないような恐ろしい話に、ボクの体は固まった。
――まあ、長い付き合いになると思うから、よろしく。
「よろしく」ったって、こっちはちっともよろしくなんてしたくないよ!
目を白黒させて驚くボクにはおかまいなしに、ハエタロウは話を続けた。
第2話に続きます。
↓↓↓
コロナ下にいろんな人とリモートで繋がる機会が一気に増え、ぱたことこむぎも時々便乗してました(笑)。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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