プリンス・ハエタロウ 第2話
『プリンス・ハエタロウ』はハエ王国のプリンスが主人公の、クスッと笑えるナンセンスなお話です!
犬は登場しませんが、楽しんでいただけると嬉しいです!
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
第1話がまだの方はこちらからどうぞ
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【 第2話 】
――さて、ボクがここに来た理由だが、さっきも言った通り、日本では最近みるみる食べものが少なくなってきて、暮らしにくくて困っているというSOSが仲間から入ってね。深刻な状況をなんとかしようと、王子自らやって来たってわけなんだ。
そこまで打ちこむと、手の上でハエタロウは二本足で立ち上がり、右前足を「やあ」とでもいうように上にあげた。
そして、左前足で右中足に持っている細長い携帯電話のようなものをピッピッピッと押し始めた。
どうやら、その中足に持っているものがリモコンで、パソコンへの交信もそれで行っているようだった。
――この状況をなんとかするには、やっぱり人間の協力が必要だ。そこで選びだされたのがエータ、君なんだ。光栄なこととして、ぜひ喜んでくれたまえ。
ボクはずっこけそうになったけれど、運のいいことに体が動かなかった。
「なんでボクなんだよ?」
――それは、たまたま開いてた窓から中に入ったら・・・、じゃなくて、お前がパソコンに向かう後ろ姿を見て、こいつだ、こいつしかいないってピーンときたんだ。
「ふん、けっきょく誰でもよかったってことじゃん。」
――そんなことはない、エータは選ばれたんだから。喜ぶべきことだ。
「調子の良いこと言って。それで、ボクの体を使って何をしようっての?」
――まあ、そう焦るな。明日一日一緒に生活させてもらって、状況をよく見てから作戦を練ろうじゃないか。
「はぁー?」
ボクの毎日はより憂鬱なものとなった。
次の日の朝、ボクはいつものようにお母さんに起こされて目が覚めた。
誰にもコントロールされずに、自分でベッドから起き上がって服を着がえ、ランドセルを持ってリビングへの階段を下りた。
ハエタロウなんて生きものはどこにもいなかった。
よかった。あれはきっと夢だったんだ。
ハエがパソコン使って交信してくるなんてありえないもんな。
ボクはほっと胸をなでおろした。
目玉焼きとバタートーストを一口かじり、立ち上がろうとした時、右耳に嫌な痛みが走った。
胸が悪くなるような予感。
ボクはなぜか、トーストの端をちぎると手の中に握りしめた。
「いってきまーす。」
ランドセルを背負って学校への道を歩き出すと、握りしめられていた手が自然に開き、どこからともなく飛んで来た大きなハエがト
ーストに止まった。
こいつ、ハエタロウか?
ボクは握り潰してやろうと思って、手に力をいれた。
ところが、ボクの手は昨夜と同じように全く言うことをきかなかった。
「ハエタロウ、握り潰したりしないから、ボクの手を自由にしてくれよ。こんなとこ、誰かに見られたらやだよ。」
けれど、ハエタロウからの返事はなかった。
「そうか、パソコンがないから交信できないのか。」
ボクはがっくり肩を落とし、諦め半分の気持ちで手の上のハエタロウを見た。
ハエタロウは夢中になってトーストにへばりついていた。
「こんなことしてられない、遅刻しちゃう。」
ボクは気を取り直し、誰にも見られないようになるべく道の隅を歩き、学校へと急いだ。
校門をくぐるころには、食事を終えたのか、ハエタロウは手から離れてボクの顔のまわりをヴィーヴィー飛び回り始めた。
そして、羽音が右耳に接近したと思ったら急に音が止み、
「スタンバイ、OK」
と、聞き慣れない声が耳の中でこだました。
「なんだ?」
何がおこったんだ?
きょろきょろ周りを見回すボクに、
「ボクはここにいる。エータの右耳の中。」
と返事が返ってきた。
「えーっ!」
ボクは右耳の穴に人差し指を突っ込もうとした。
「触っちゃダメだ。ボクをここからほじくり出そうなんてしたら、鼓膜を破ってもっと中へと入りこんでやるからな。覚えとけ。」
「わかったよ。」
恐ろしい言葉にボクはしぶしぶ手を下ろした。
「これからは直接エータの鼓膜に振動を送って話させてもらう。」
耳の中にハエを入れて、しかもそのハエにコントロールされているなんて。
ボクはとてつもなく暗い気分になった。
これじゃあ、西岡につけられたあだ名の通り、ボクは本当に『ハエ』じゃないか。
もう、何もかもが嫌になってしまった。
西岡がボクのことを『ハエ』と呼ぶようになったきっかけは、全然たいした事じゃない。
だって、担任の実夏先生の手伝いをちょっとしただけなんだから。
実夏先生は、先生になってからまだ二年の若い先生。
元気で優しくてお姉さんみたいだから、みんなに人気がある。
一週間前の昼休みが終わる頃、サッカーを終えたボクたちは教室に戻ろうとしていた。
その時、たくさんの本を運んでいる実夏先生と会って、ボクはそれを手伝ったんだ。
そうしたら、後ろから来た西岡が追い抜きざまにボクをギロッと睨んだ。
その時は変なヤツと思っただけだった。
だけど掃除の時間、西岡は仲間たちに向かって、ボクに聞こえるようにわざと大声で言ったんだ。
「エータってまるでハエだよな。
実夏先生の周りをブンブン付きまとって、気に入られようと手をスリスリしてるんだから。」
って。
ボクは顔がカアッと赤くなるのが自分でもわかった。
「ハエが手をする、足をする。おい、エータ、やってみろよ!」
西岡がボクのほうを向いて言った。
ボクは聞こえない振りをして、下を向いたままほうきで部屋の隅を掃き続けた。
「おーい、エータくーん。
うじうじしちゃって。
たしかハエの幼虫ってうじ虫だったよな。
やっぱりエータはハエだ。
今日から『ハエ』って呼ぼうぜ。」
なんでボクがハエなんだよ。
だけど、この時もボクは何も言い返せなかったんだ。
第3話に続きます。
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我が家の秋田犬姉妹はハエタロウ以上に食いしん坊です!
自分たちのおやつの鶏のとさかをあっという間に平らげ、
人間のおやつのマフィンも狙いに群がってきました💦
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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