プリンス・ハエタロウ 第6話

『プリンス・ハエタロウ』はハエ王国のプリンスが主人公の、クスッと笑えるナンセンスなお話です!

 

犬は登場しませんが、楽しんでいただけると嬉しいです!

こんにちは。

秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。

今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

 

第5話がまだの方はこちらからどうぞ

↓ ↓ ↓

プリンス・ハエタロウ 第5話

 

【 第6話 】

クラス全員がついて来た。

西岡もぶつぶつ文句を言いながら、ふくれっつらでついて来た。

竹林を抜けると、赤丸印の所は黒くもやがかかったように見え、近づくにつれてビービー騒がしい音が聞こえてきた。

もっと近づくと、その黒いもやの正体がハエだとわかった。

そこにはもの凄い数のハエが飛んでいて、一番高い位置に体の大きなハエタロウがいた。

ボクも西岡もクラスのみんなも、あまりのハエの数の多さに驚いて、その場に立ちすくんでしまった。

ハエたちもボクたちの姿を見ると、警戒するように急に動きを止めた。

「なんだよ、あれ!

あんなにたくさんハエを集めちゃってどうするんだよ!

やっぱりお前、頭おかしくなったんじゃねぇの?」

西岡は余程びっくりしたのか、慌ててボクの手からバケツを奪い取り、その場から引き返そうとした。

その途端、ハエタロウはもの凄いスピードで西岡目がけて突撃してきた。

それを見た周りにいる大量のハエたちも、ボクたちに向かって飛んで来たから、もうみんな大騒ぎだ。

キャーキャー言いながら、クモの子を散らしたように、あちこちに逃げ回った。

ボクはハエタロウにコントロールされないように、とっさに両手で両耳をふさいだ。

けれど、そんな抵抗は必要なかった。

ハエタロウたちの狙いは西岡一人だったからだ。

ただでさえよく思っていない西岡が給食のバケツに手を出したものだから、横取りされると思って怒ったハエタロウたちは、西岡の周りを囲み始めた。

西岡の姿は、あっという間にハエの黒だかりに包まれて見えなくなってしまった。

前にテレビで見たことがある。

ハチの大群に包まれて死んでしまった虫のことを。

ひっきりなしに動かしている羽から発生する熱の暑さと息苦しさのため、死んでしまうのだ。

今の西岡はその時の虫と全く同じ状態だ。

「ハエタロウ、やめてくれよ!

西岡、死んじゃうよ!」

ボクは大声で叫んだけど、ハエタロウはどこにいるのか、何も答えてくれない。

「西岡もわかってくれるよ!

ハエタロウたちのために、給食の残り物を一緒にここまで持って来てくれたんだよ!」

ボクのその言葉に、ハエたちの動きが緩やかになった。

黒いかたまりの中心から大きなハエタロウが飛び立ち、それにならって他のハエたちも糸をほどくように順番に西岡から離れていった。

中から現れた西岡はまっ赤な顔をして、目を白黒させていたけれど無事だった。

「大丈夫?」

ボクは大きく肩を揺すりながら息をしている西岡を、その場に静かに座らせた。

空中で羽ばたきしながら止まっていたハエの大群は、しばらくボクと西岡の様子を見ていたけれど、ハエタロウを先頭に急に大きく動き始めたかと思うと、大きな矢印の形を作って地面をさした。

ボクが呆気に取られていると、その隙にハエタロウはボクの耳の中へと入ってきた。

「スタンバイ、OK」

「ハエタロウ!」

「エータ、西岡にちゃんと言えたか?」

「うん。」

「やったな!」

「うん。」

「エータのおかげで、思った以上に早く問題が解決したよ。

ありがとう!」

「うん。」

ボクは少し照れ臭くて、ただ「うん」を繰り返した。

「これ、給食の残り。

矢印の所に置けばいい?」

「ああ、みんな待ちかねていたんだ。

早いとこ頼む。」

ボクは心配そうな顔をしている西岡の肩を軽く叩くと、矢印の先にバケツの中身をあけた。

『西岡、さっきは悪かったな』

ハエタロウはボクの口を使ってそう言うと、ボクの体をコントロールして西岡に手をさし出し、立ち上がらせた。

『さあ、みんな、人間からのプレゼントだ!

好きなだけ食べていいぞ。』

ハエタロウの声を合図に、矢印の形をしていたハエたちはその形を崩し、一斉に給食へと急降下した。

ボクも西岡もクラスのみんなも、しばらく黙ってそれを眺めていた。

信じられないような出来事に、怖がっていたみんなの顔も今は興奮で赤らんでいる。

「さあ、ボクもご馳走をいただくとするか。」

ハエタロウはそう言うと、ボクの耳の中から飛び立った。

給食の上空で大きくぐるっと一回りするハエタロウに、他のハエたちも吸い寄せられるように飛び上がった。

 

[THANK YOU !]

 

今度はハエの文字だ。

「なんだ、あれ? なんて書いてあるんだ?」

「さあ?」

首を傾げるボクたちに、ハエたちはまた別の文字を作った。

 

[ありがとう!]

 

英語も読めないなんて人間の子どもはだめだねぇ、

というハエタロウの声が聞こえてきそうだった。

その時、ハエタロウが文字から抜けて、まるでさよならの挨拶をするみたいにボクの周りを飛んだ。

それを合図に他のハエたちは一斉に急降下し、また美味しそうに給食を食べ始めた。

「ハエってすげえなあ。」

西岡が目をまん丸くさせて言った。

ボクは胸を張って答えた。

「だから言ったろ。ハエをバカにするなって。」

 

終わり

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

ぱたこもこむぎもスイカが大好き!

ハエタロウに叱られそうなほどきれいに食べてしまいます(笑)。

 

今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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