ネコクイを追いかけろ! 第4話
「ネコクイを追いかけろ!」は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で夏休みを過ごすことになった少年の成長物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
↓↓↓第3話がまだの方はこちらからどうぞ
↓↓↓第1話はこちらからどうぞ
【 第4話 】
そのまま前に進んで良いものかどうか迷い、一瞬足を止めたその時、
母ネコがものすごいスピードでボクの足をかすめて走って行った。
母ネコのただならぬ様子に、その先に目をやると、子ネコのクリームの姿が草の間にちらっと見えた。
「まさか」
ボクの予感は悪い時にかぎってよく当たる。
「クリーム、危ない!」
ボクが母ネコの後を追おうとした時にはもう遅かった。
クリームの姿は金網の間に消え、続いて母ネコの姿も消えた。
草が茂っていてよく見えないのだが、公園の周りを囲っている金網の下の部分がそこだけ破れているのだ。
以前、ボクは風に吹かれた空のペットボトルがその穴から地底の道へと落ちていくのを見たことがある。
「ギャー!」
地底の道から叫び声が聞こえた。
それはネコの声ではなく、人間のものだった。
「いってぇー!」
「大丈夫か! ちゃんと受けとめたか?!」
「大丈夫。受けた!」
ボクは急いで金網まで走り、声のするほうを覗き込んだ。
地底の道にいたのは、思った通り二人の少年、坊主頭の少年だった。
一人が尻もちをつき、そのお腹の上にしっかりとクリームを受け止めていた。
母ネコはさすがに野良だけあって見事に着地を決めたようで、転んだ少年に抱えられているクリームに急いでかけより、驚いてミーミー鳴き叫ぶクリームをペロペロなめてやっていた。
転んではいない方の、昔の校長先生がかけていたような時代がかった丸メガネをかけた少年が、ボクの視線に気付いたのか、ふと上をむいた。
「バカヤロー!! おまえが落としたのか!」
「違うよ。ボクじゃない。」
覗き見していたようなうしろめたさから、ボクの声はかすれていた。
「うそつけ。おまえ以外に誰がやったっていうんだよ!」
「違うってば! ほんとにボクじゃない。ネコたちが自分で落ちたんだ。」
「うそくせー! 信じるもんか。」
クリームに気をとられ、それまで黙っていた尻もちをついた方の少年が、ゆっくりと顔を上げ口を開いた。
「おまえ、誰だ?」
それを聞いたメガネの少年も、ボクがよそ者であるということに気付いてしまったようで、少しずり落ちてきたメガネを両手で直しながら、さらに冷たい口調でボクに怒鳴りつけた。
「そうだ。おまえ誰だ? なんでそこにいる?」
「ボクは・・・。」
ボクは人の陣地に勝手に入り込んでしまったよそ者。
そう責められているようで、次の言葉が出てこない。
「なんだよ。」
メガネの奥の鋭い目で睨み付けられる。
「ボクはただ・・・。」
ただネコたちに会いにきただけなんだという言葉が、二人の少年の目に圧倒されて出てこない。
いつの間にか尻もちをついた少年は立ち上がり、クリームは母ネコのおっぱいに吸い付いていた。
「もしかして、おまえネコクイの手下か?」
「ネ・コ・ク・イ?」
聞きなれない言葉にぽかんとしているボクに向かい、
「そうか、ネコクイの手下なのか!」
「おまえ、恥ずかしくねえのか? こんなことして!」
ボクはもう何がなんだか分からなくなってしまった。
ネコクイ? 手下?
「ネコクイって何だ?」
「しらばっくれるな!」
その時チビネコがボクの足元でミーと鳴いた。
ボクの顔を見上げ「お母さんはどこ?」と聞いているようだった。
ボクは屈み込み、「大丈夫だよ」と頭をなでてやった。
「やめろー!」
「もうこれ以上手出すなー!」
下から続けざまに叫び声が聞こえた。
あの二人の少年、勝手にボクを犯人だと決めつけて訳の分からないことを言っている。
頭おかしんじゃないか?
急にばかばかしくなり、ボクはチビを抱き上げると下に向かって叫び返した。
「子ネコはここの穴から自分で落ちたんだ。
母ネコはそれを追いかけただけ。
ばかな言いがかりつけてるより、早くネコたちをこっちに戻して、この穴をふさいだほうが賢いんじゃないの。」
「なんだとー! そんな言い訳信じるもんか。」
「そうだ、早くその子ネコを下におろせ!」
「下におろしたら、またこの穴から落ちちゃうかもしれないだろ。」
「おまえ、また下に落とすつもりか!」
「やっぱりネコクイの手下だな。」
「ばかなこと言うな!
ここの穴からまた落ちるかもしれないって言ってるだけだろ。」
その時だった。
山の奥からものすごいスピードで一台の自転車が走ってきて、二人の少年の脇をすり抜けた。
ほんの一瞬の出来事だった。
長い棒のようなものを振り回すと、母ネコから離れてふらふらしていたクリームをさっとすくい上げ、あっという間に走り去ってしまった。
「しまった、やられた!」
「早く追いかけろ!」
二人の少年は腹の底からそう叫ぶと、自転車に吸い寄せられるように追いかけていった。
母ネコは突然の出来事に、何が起こったのかすぐには理解出来なかったようだが、子ネコがいなくなっていることに気付くと、慌てて少年たちの後に続いた。
ボクは何がなんだかさっぱりわからず、呆気にとられていた。
呆気にとられていたけれど体が自然に動き、かぶっていた帽子をぬぐと金網の穴をふさぎ、子ネコ二匹をねこじゃらしの寝床に返した。
急いで階段を駆け下り、地底の道が地上の道と交差する点に立ち、彼らの姿を必死に探した。
何故かそうせずにはいられなかったのだ。
自転車が走っていった方向の道は細くクネクネとした裏道で、走って行くとすぐに海へと突きあたった。
誰の姿も見えない。
ボクは乱れた息をととのえようと堤防にもたれかかった。
さっきの出来事はいったいなんだったのだろう。
突然山の中から自転車が現れ、その自転車は迷うことなく子ネコめがけて突進した。
そして、そう、あれは虫捕り網だ。
虫捕り網で子ネコをすくい上げ逃げていった。
自転車に乗っていたのは白髪頭のおじいさんだった。
白いランニングシャツに短パン姿のおじいさん。
いったいなんのためにおじいさんがあんなことをするのか。
ボクには理解不能な不思議な出来事。
まるでおとぎ話の中にでも入ってしまったような感覚だ。
もしかしたらさっきの出来事は現実ではなかったのかもしれない。
ボクがそう思いかけていた時、あの二人組がすぐ前のみかん畑からひょっこり姿を現した。
ボクの姿を見つけると二人で何かこそこそと話しあい、すぐに向きを変えてこちらに駆け寄って来た。
「おまえ、あの子ネコをどうするつもりだ?」
メガネの少年が突っかかってきた。
それを制するように、もう一人の少年がメガネの少年の袖を引っ張りながら言った。
「頼むから返してくれよ。」
「返してくれって言われたって、ボク知らないよ。」
ボクは二人の顔を見比べながら言った。
「さっきのおじいさんは何なの? なんであんなふうに子ネコを捕っていったの?」
ボクはさっきの不思議な光景の秘密を知りたくて、そう一気に尋ねた。
「なんでって、おまえ仲間なんだろ!」
次回に続きます。↓↓↓
お散歩中に不審な自転車を見つけ、ぱたこもこむぎも探りに行きました!
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
他の作品はこちらからどうぞ
0同じカテゴリの記事
-
前の記事
ぱたこむ劇場(17) 新しい宝物おしゃぶりパンダを手に入れた可愛い秋田犬ぱたこ 2023.10.14
-
次の記事
ぱたこむ劇場(18) 寝床を快適に整えてから我が子を連れて来る可愛い秋田犬ぱたこ 2023.10.29