ネコクイを追いかけろ! 第5話
「ネコクイを追いかけろ!」は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で夏休みを過ごすことになった少年の成長物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【 第5話 】
メガネの少年がかみつくように言った。
今にもボクに殴りかかってきそうな勢いのメガネの少年を、またしてももう一人の少年が腕を前に出して制した。
「だから、オレたちはあの子ネコを返してほしいんだよ。
あの子ネコはオレたちのなんだ。
産まれる前からずっと母ネコの世話をして面倒見てきたんだ。」
「そうだよ! だから返してくれよ。」
メガネの少年は涙ぐんでいた。
「そんなこと言われたって、ボクは本当に関係ないんだ。
さっきのおじいさんを探して取り戻すしかないよ。
いったい何者なの? あのおじいさんは。」
「何者って、おまえ本当にあいつのこと知らないのか?」
「うん、知らない。」
ボクは首を大きく縦に振りながら答えた。
「うそつけ! 俊一、だまされるな!」
メガネの少年が涙で顔をくしゃくしゃにしながら叫んだ。
「本当に知らないんだってば。
誰なの? なんで子ネコをさらっていったの?」
「本当に知らないんだったら、なんでさっきあそこにいた?」
俊一と呼ばれたほうの少年が疑い深い顔でボクの目を見つめた。
「ボクもネコたちに会いに行ったんだよ。」
ボクは急いで背中のナップサックを下ろしておにぎりを取り出し、二人に見せた。
「ほら、これを食べさせてやろうと思って。」
「本当か?」
「本当だよ。」
「じゃあ、本当にネコクイの手下じゃないんだな。」
「『ネコクイ』って・・・?」
ボクはその奇妙な響きの言葉に、おかしな世界に吸い込まれそうな不思議な感覚に襲われた。
「そうか、その『ネコクイ』って、さっきのあのおじいさんのこと?」
「そうだよ、おまえ本当に知らねえんだな。」
メガネの少年はやっと気持ちが落ち着いたらしく、ポケットからくしゃくしゃのハンカチを取り出し、涙をふきながら言った。
「ネコクイはな、ネコを捕まえて食っちまうんだよ。」
「えーーーっ!!」
信じられない言葉にボクは度肝を抜かれた。
「食っちまうって?!」
「そう、食っちまう。食べちまうんだよ。」
メガネの少年は子ネコが食べられてしまうことを想像してしまったのか、またしても肩を大きく震わせ、鼻をすすりながら泣き出しそうになった。
「そんなのうそだろ。
誰か食べるところを見たやつでもいるのか?」
「見たやつはいねぇけど、ネコクイはいつもいつもああやってネコを探しては捕まえていくんだぜ。
そんで捕まえられたネコは一匹も戻ってきたためしがない。」
俊一が堤防に腰掛けながら言った。
それに続き、メガネの少年も両手で涙と鼻をぬぐいながらとなりに腰掛けた。
最初から気になっていたけれど、二人は顔も体型もやることもそっくりだった。
違うところといえば、一人はメガネをかけていて、もう一人はかけていないことだけ。
「もしかして、双子?」
「そう、双子。」
二人同時に答え、そして、二人同時に答えたことに対して二人同時に笑いだした。
ボクもつられて笑ってしまった。
「おまえは誰だ?」
俊一がボクに聞いた。
さっきまでの険悪な雰囲気は消え、優しい口調だった。
「ボクはこうすけ。夏休みの間だけ、この近くのおばさんの家に来てるんだ。」
「ふーん。オレは俊一。」
「オレは俊二。」
「オレがアニキで、こいつが弟。」
俊一が言った。
「そう、こいつがアニキでオレが弟。」
もうすっかり泣きやんでいたメガネの俊二もそう言い、ボクたち三人はまた笑った。
公園に戻ると、母ネコはもう帰ってきていて、残った二匹の子ネコたちにおっぱいを飲ませていた。
さらわれた子ネコが食べられてしまうと知っているのか知らないのか、なんとなくその目は涙ぐんでいるように見えた。
母ネコにしゃけたっぷりのおにぎりを一つやり、ボクたち三人も一つずつ食べながら、子ネコを取り戻すための作戦をねった。
「あいつの家はわかってるんだ。」
俊一のその言葉に、ボクたちはネコクイの家の近くに隠れて待ち伏せすることにした。
帰ってきたところを驚かせ、自転車で転んでクリームを落っことしたら、それを拾って逃げるという計画だった。
「だけど残った二匹は大丈夫かなぁ?
またネコクイがつかまえにやってこないか?」
ボクは単純な疑問を口にした。
「大丈夫さ、子ネコ一匹連れたまま他の二匹をつかまえるなんてとうてい無理。
まずはあのネコを連れて帰る、絶対さ。」
俊一の力強い言葉にボクも俊二も納得した。
「それにあの母ネコがだまってやしないさ。」
ボクたち三人はそれぞれの自転車を、ネコクイに見つからないように、そしてなるべく早く逃げられるように、山へと入る道の脇の茂みの中へと隠し、ネコクイが自転車で現れた山の中へと歩いた。
昼間なので太陽の光が差し込み、明るくてなんとか救われたけれど、もしもこれが夕方か、ましてや夜だったら、ボクは恐怖で一歩も進めなかっただろう。
山の中は歩道はあるにはあるけれど、人が一週間も歩かなければ、すぐに草で隠れてしまいそうな道だった。
「こんな山の中に本当に家なんてあるの?」
ボクは不安になって聞いた。
「なんだ、こうすけ、怖いのか?」
メガネの俊二がバカにしたように言った。
「怖くなんかないさ。
だけど、どこまで行ったって木ばかりじゃないか。」
ボクは不安な気持ちを悟られないよう、思いきり強がって言った。
「もうすぐさ。ほら、あそこ。」
俊一の指差す方を見ると急に視界が開け、古ぼけた平家が一軒、寂しそうに建っていた。
雨戸は閉まったままで、屋根の一部はくずれ落ち、とても人が住んでいるようには見えなかった。
こんな家が今の時代に存在するなんて、ボクは目を疑った。
次回に続きます。↓↓↓
【初恋】ちっちゃい彼に押され気味の秋田犬こむぎ
仲良くなれそうでなれない微妙な関係のこむぎとダックス君でした(笑)。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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