ネコクイを追いかけろ! 第7話
「ネコクイを追いかけろ!」は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で夏休みを過ごすことになった少年の成長物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【 第7話 】
ボクたち三人は恐怖のあまりしばらく誰も口がきけなかった。
お互いにお互いの顔色をうかがい、誰かがもう諦めて帰ろうと言い出すのを待っていた。
俊一も俊二もしゃがみこみ、草を引っこ抜いている。
ボクも二人の側にしゃがんだ。
「どうする?」
俊二が口を開いた。
ボクはボク自身のプライドにかけて、自分の口から帰ろうと発するのは嫌だった。
かといって、もう一度家の中に入ろうなんて気はこれっぽっちもない。
ボクは俊二と目が合わないように下を向いた。
「もう帰ろうか。」
意外な言葉が俊二の口からでた。
ボクも俊一も黙っている。
「こうしててもしょうがないし。」
俊二は立ち上がり、それに従ってボクも俊一も立ち上がった。
これでここから離れられるとほっとしたのと同時に、子ネコのことが急に心配になった。
「子ネコは大丈夫かなぁ?」
その瞬間、俊二の目が獲物を捕らえたライオンのように輝いた。
ボクはライオンににらまれたキツネのように縮み上がった。
しまった!
これでは俊二の思うつぼだ。
俊二は意地の悪い笑みを浮かべ言った。
「そうだよなぁ。このまま見捨てては帰れないよなぁ。
じゃあ、こうすけ、おまえが探してこいよ。」
マジかよー!
俊二の言葉に、ボクは心の中で叫んだ。
ボクはまんまとわなにはまってしまった。
俊二には最初から帰る気なんてさらさらなかったのだ。
ただボクに、もう怖いから家の中に入るのなんて嫌だ、と言わせたいために仕組んだわなだったのだ。
なんてずる賢いんだ。
ボクは腹がたった。
絶対に俊二には負けたくないと思った。
ボクは歯を食いしばって意を決した。
「よし、わかった。もう一度探そう。」
もうやけくそで言ったボクの一言に、俊二が目を白黒させて驚いているのがおかしかった。
家の中はひんやりと涼しい。
外の暑さがうそのようだ。
さっきの音はもう静まり、ひっそりとしていた。
「子ネコやーい、いるかーい。」
ボクは周りの空気をなるべく動かさないように小さな声で言い、そろそろと一歩ずつ足を踏み出した。
押入れまで行き、恐る恐る中をのぞきこんだけれど、中はただの暗闇で、もう何の気配もなかった。
「もしかしたらさっきのはネコクイに食べられたネコのゆうれいかも。」
いつのまにかボクの後ろに来ていた俊一が怖ろしそうな声で言った。
「ばか、違うよ。
きっとネコクイが、オレたちをこの家に近づけさせないように妖術をかけていったんだぜ。」
俊二がもっともらしく言った。
そのどちらでもあってほしくない。
ボクは恐怖に全身を強張らせ、何事も起こらないうちにここから立ち去れるよう、祈るような気持ちで子ネコを探した。
目が慣れてくると、ボクたちが見て回った二部屋の他に、北側にもガラス戸で仕切られた部屋が二部屋並びであるのがわかった。
ボクが開いているガラス戸から奥の部屋に入ると、その部屋にはみかんの空き箱のようなダンボール箱が三つ置いてあった。
この中にきっと子ネコがいる!
ボクは胸が高なるのを感じながら、一番近くのダンボール箱をのぞいた。
何かが動いているのが見えた。
やった! 子ネコだ。
ボクは抱き上げようと手をいれた。
ところがその瞬間、その生き物はダンボールの横に開いた穴からものすごいスピードで逃げていってしまった。
細長いしっぽ。今までに実物にお目にかかったことはないけれど、おそらくあれ、ネズミだろう。
ボクは当然のように叫び声を上げた。
ボクの声に驚いた俊一と俊二が何かを叫びながら外にかけ出して行く音が聞こえる。
ボクはしばらく体が固まってしまって動けなかった。
脳みそまで固まってしまい、何も考えられない。
その時だった。
奥のダンボール箱から子ネコの小さな鳴き声が聞こえたのは。
ボクは嬉しさで泣き出したい気分だった。
子ネコが見つかった喜びと、この化け物屋敷からやっと離れられるという喜びで。
慎重に一歩ずつ足を小さく踏み出し、五歩目でダンボールの中をのぞきこむと、暗闇の中にさっきの生物とはあきらかに違う、ふわふわの白い毛玉が動いているのが見えた。
ボクがそっと抱き上げると、それは「ミィー」と小さく鳴き、ボクの腕をざらざらの舌でなめた。
「すげぇなぁ! こうすけ。見つけたのか!」
ボクが玄関まで戻ると、中をのぞきこむようにして待っていた二人が言った。
「弱虫の都会っ子だとばっかり思ってたけど、なかなかやるなぁ。」
俊二の言葉にくすっぐたい気分になり、ボクは照れ隠しに言った。
「おまえら弱虫だなぁ!」
「なんだと、このやろう!」
俊二がそう言いながら、ボクにヘッドロックをかけてふざけてきた。
俊二の腕はひんやりと冷たくて気持ちよかった。
「ひでぇなあ、こうすけが一番怖がってたくせに!」
俊一もこぶしでボクの脇腹をつついた。
ボクは心の中が熱くなり、なんだかとても幸せな気分だった。
ボクたち三人は子ネコを大事に抱きかかえて山を下りた。
山を下りながらいろいろなことを話した。
俊一と俊二はボクと同じ小五で、夏休みに入る前から母ネコにエサを運んでいたこと、
家ではネコを飼ってもらえないこと、
そして最近子ネコたちが歩きまわるようになったのでネコクイに狙われないように、毎日昼間、地底の道でわざと大声を張り上げてネコクイが近寄らないようにしていたこと。
ボクは両親がベトナムに行っている夏休みの間だけおばさんの家にいること、
東京に住んでいること、
図書館に来たときにネコの親子を見つけたことなどを話した。
「おまえのおばさんの家でネコ飼えないのか?」
俊一が子ネコの頭を人さし指で優しくなでながらボクに聞いた。
「無理だよ。」
ボクは俊一の顔を見ずに答えた。
「なんで?」
「なんでって、なんでも。」
「おまえ、頼んでみたことあるのか? おばさんに。」
ボクは答えにつまった。
聞いてみたことなんかない。
初めから諦めていた。
東京のマンションではペットショップの血統書つきのネコならまだしも、野良ネコなんか飼えるはずがない。
でもこの島だったら違ったのかもしれない。
「おまえがもっと早くおばさんに頼んでネコたちを連れていってれば、ネコクイにさらわれることもなかったのに。」
本当にその通りだった。
だけど、ボクはネコクイなんて存在のことを知らなかったんだ。
その時、下の方からこっちに向かって歩いて来る人影が見えた。
白いよれよれのランニングシャツにベージュの短パン。
白髪頭に手に持った虫捕り網。
自転車を押しながら来るその人は間違いなくあの「ネ・コ・ク・イ」だった。
猫のいた場所を入念にチェックするぱたこ
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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