ネコクイを追いかけろ! 第10話
「ネコクイを追いかけろ!」は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で夏休みを過ごすことになった少年の成長物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【 第10話 】
沈みかけた太陽を追いかけるように、三人で競争しながら橋を渡って帰った次の日、ボクは俊一たちに会えるかなと期待を胸に、図書館の公園に行った。
昨日のようにしゃけ入りの特大おにぎりを四つ持って、母ネコにもあげるつもりだった。
けれど、俊一たちも母ネコもいなかった。
母ネコは子ネコたちを探しにいったのか、それとも野良ネコの強さで、もう子育ては終わったと割り切って出て行ってしまったのか、ボクにはわからない。
地底の道をのぞけば俊一と俊二が「おーい」と声をかけてくれそうで、フェンスに近寄ったけれど誰もいなかった。
何もかも消えてしまった公園はとてもひっそりとしていて、せみの声さえもどこか遠くの方で鳴いているような感じがした。
昨日の別れ際、ボクはまた明日一緒に遊べるかどうか俊一たちに聞こうと思った。
けれど、もし断られたらと思うと、どうしても口に出せなかった。
どうしてあの時ほんの少し勇気をだして約束しなかったんだろう。
そうすればこんな寂しい思いはしなくてすんだのに。
ボクは、自分自身が情けなくて悔しくてしょうがなかった。
次の日も、そのまた次の日も、俊一と俊二には会えなかった。
海岸沿いの道を自転車で走ったり、みかん畑の中を注意深く探したりしたけれど、どこにもいなかった。
毎日三十分かけて、となりの島の花屋まで子ネコたちの様子を見に行ってるけれど、そこにも現れない。
母ネコも、ネコクイさえも、すっかり姿を消してしまい、あれは夢だったのかとさえ思えてしまう。
一週間後、ボクは意を決して山の上のお化け屋敷に行ってみることにした。
もしかしたら俊一たちは別の子ネコを見つけて、ネコクイから守るためにまたあそこで張り込んでいるかもしれないと思ったからだ。
二度と通りたくないと思ってた道を、俊一たちに会いたい一心で、勇気を振り絞って歩いた。
一本道なので迷う心配はない。
心配なのは木陰から妖怪がでてこないかということだけだ。
木の枝が風に吹かれてほんの少し揺れるだけで、ボクは身構えた。
やっとのことでネコクイの家に着くと、ボクは静かに家に近寄り、中に誰かいないか耳をすませた。家の中はひっそりしていて、物音一つしなかった。
ボクは小さな声で呼んでみた。
「おーい、俊一、俊二、いるかー。」
けれど何も反応はない。
さすがに一人でこの家の中に入る勇気はとてもなかった。
玄関の戸は閉まっている。
もし二人が中にいるのなら開いているはずだ。
もしかしたらどこかの茂みに隠れているかもしれない、とボクは家の周りを探してみることにした。
家の裏手に回ると、そこからは海が見えた。
波のない穏やかな海だった。
太陽の光が反射して眩しいくらいのきれいな海だった。
その海を背に、二本の太い四角い木の棒が地面に立てられていた。
まるでお墓のように。
ボクは一瞬凍りつくような恐怖を覚え、そして吸い寄せられるようにぎごちない足取りで、一歩、また一歩とそれに近づいて行った。
棒はとても古かったけれど、ところどころに残っている文字と、その前にあるお花立てらしい丸い筒から、ボクはやはりお墓なのだろうと思った。
そして、そこに残っている文字をよく見ると、一つの棒には「小山」の文字と「一」、もう一つの方には「俊」の文字と「十一歳」の文字が見えた。
ボクは、息もできないくらい驚き、涙がぽろぽろぽろぽろこぼれてきて、胸が苦しくて張り裂けそうになった。
あの後二人は死んじゃったの?
そんなわけない!
ボクは事実を確かめようと、あふれてくる涙を手でぬぐい、一目散に山を駆け下りた。
次回に続きます。
秋田犬の妹になりたいセミ
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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