ネコクイを追いかけろ! 第11話(最終話)
「ネコクイを追いかけろ!」は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で夏休みを過ごすことになった少年の成長物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【 第11話 】
おばさんは、
「おじいちゃんから聞いた話だけど」
と教えてくれた。
「あのお墓は五十年以上も前に十一歳で亡くなった双子の兄弟のお墓でねぇ、おじいちゃんとは友達だったんじゃって。
ほら、この前アルバム見たとき写真がはさまっとったじゃろう。」
そう言いながら、おばさんはもう一度、裏に『源太 十一歳』と書いてある、あの色あせた写真を仏壇の下から取り出してくれた。
ボクは穴があくほどその写真をにらみつけた。
顔に力をいれていないと、また涙がこぼれ落ちて来そうだったから。
写真の中の双子の少年たちは、俊一と俊二に間違いなかった。
「まん中がおじいちゃんで、両脇がその子たち。
いつも三人一緒に海で泳いだり、虫捕りしたりして遊んでたんじゃって。」
おじいちゃんの鼻の横にはほくろがあった。
あの時、俊一と俊二はボクをおじいちゃんと間違えたんだ。
あの時、不思議な音に響いた『ゲンタ』って名前。
おじいちゃんの名前だったんだ。
写真に写った三人の顔がぼやけて、よく見えない。
ボクはおばさんに気付かれないように、うつむいたまま、そっと涙をぬぐった。
「二人はとてもネコが好きで、よく野良ネコの世話もしていたんじゃって。
でもねぇ、戦争中じゃったけぇ」
おばさんはボクの涙に気付いているのかいないのか、話を続けた。
人間の食べ物にも困るのに、子ネコに自分たちのごはんを残して食べさせてるのが見つかってしまい、
怒った双子のおじいさんが、あそこの崖から子ネコを投げ捨てようとした。
それを止めようとして、二人とも過ってすべり落ちてしまった。
ということだった。
そして、その双子の名前が「小山俊一」と「小山俊二」というのだそうだ。
ボクは心臓が締め付けられ、そして鼓動が早くなるのを感じた。
ネコクイを一緒に追いかけた俊一と俊二は、死んだはずの子どもたちだったのだ。
けれどボクは怖いとは感じなかった。
俊一と俊二はボクの友達だから。
「実は、一つ不思議なことがあってね。」
おばさんは重い口を開いた。
「今は大学に行ってる、おばちゃんの息子の健人、こうすけも知ってるでしょ。
あのこがちょうどこうすけと同じくらいの歳のとき、今のこうすけと同じようなこと聞いてきたのよ。」
「えっ!」
もしかして・・・。
ボクの頭の中にある思いが巡り、体中がぞくっとした。
「それって、何年前? なんて言ってたの?」
矢継ぎ早に聞くボクに、おばさんは少し微笑み、首をひねりながら一生懸命記憶の糸をたぐり寄せていた。
「たしか五年生のときだから、八年前よ。」
ぴったりだ!
ボクは心の中で叫んだ。花屋のおばさんも八年前だと言っていた。
「あのお墓は誰のお墓かって。
それで、今こうすけに話したのと同じことを、おじいちゃんが健人に話して聞かせたの。
そうしたら、健人がものすごい勢いで食って掛かったのよ。」
ボクはつばをごくりと飲み込んだ。
「そんなはずないって。
だって、昨日その双子の俊一と俊二と一緒に遊んだんだから。
その二人と一緒にネコクイを追いかけたんだって。」
「おばちゃん、ネコクイ知ってるの!?」
「知ってるよ。
この島の人ならみんな知ってるけぇ。
こうすけも知ってたの。」
「なんなの? ネコクイって。」
「この島に昔から住みついてるって言われてる妖怪だよ。
ここにはね、昔から野良ネコが多かったけぇ。
悪さする野良ネコを捕まえては誰か彼かが処分して、聞こえが悪いから、それをネコクイのせいにしてたんだと思うよ。
だから、ネコクイなんてのはただのおとぎ話。
島中のみんなが知ってるけど、誰も見たことはないんじゃけぇ。」
「そんなことないよ!
ボク、見たんだから。
ボクも俊一と俊二と一緒にネコクイを追いかけたんだから!」
おばさんは、いつも冷ややかな態度をとっているボクの、突然の大声に目をまん丸くさせた。
けれど、すぐにいつも通りの優しい笑顔に戻って言った。
「そう。健人がそう言ったときには信じられなかったけど、こうすけも同じ体験をしたって言うんなら、きっとそれは本当なんだね。
二人ともおじいちゃんにそっくりじゃけぇ、お盆でこっちの世界に戻って来てた双子が間違えたんだね。」
「うん。」
おばさんの優しい言葉に、ボクは心の底からほっとした。
絶対に、こんな話信じてもらえないと思ってたから。
「健人はね、毎年お盆になると、あのお墓にお参りに行ってたんだよ。
ゲームとかマンガとかを持って。
今年は行かれなかったけぇ、こうすけが代わりにお参りしてきてくれたら、双子も喜ぶと思うよ。」
「うん。明日、マンガの本持って行ってくる。
俊一たちね、ゲームで遊んでたんだ。
きっと健人君があげたゲームだね。」
俊一と俊二の元気いっぱいの笑顔を思い出し、ボクの目からは堪えていた涙が、またあふれ出してきた。
翌日、ボクは隣の島へ子ネコたちを訪ね、その後、俊一、俊二たちのお墓に行って子ネコたちの報告をした。
昨日おばさんは、俊一と俊二がボクをおじいちゃんと間違えたって言ってたけれど、ボクはそうじゃないと思う。
俊一たちは、ボクをちゃんとこうすけとして扱ってくれていた。
きっと親友のゲンタの孫だって分かってたんじゃないかな。
そうだよね、俊一、俊二。
それでボクとも友達になってくれたんだよね。
「こうすけ、おまえもオレたちの親友だぜ。」
「へばらねーで、これからも毎日子ネコんとこ行ってくれよ!」
そう聞こえたのは空耳ではなかったと思う。
「おまえらのこと、絶対に、絶対に、忘れないからなー!」
ボクは胸いっぱい息を吸いこむと、海にむかって大声で叫んだ。
その帰り道、ボクは今までずっと怖いと思っていた、一番細い木の橋を渡って家に帰った。
夏休みも終わりに近づき、お土産をどっさりと抱えて迎えに来た母さんは、まっ黒に日焼けしたボクを見て、かなり驚いたようだった。
おばさんは暇をみつけてはキャットフード持参で、花屋の子ネコたちの様子を見に行ってくれると約束してくれた。
ボクは夕べから用意していた言葉を何度も心の中で練習した。
今までのボクだったら照れくさくて絶対口にはできなかった言葉。
それをフェリーに乗る時ようやく口に出すことができた。
「おばちゃん、ありがと。また来るね。」
おばさんはにっこり笑い、そして今にも泣き出しそうな顔になったかと思うと、口をにぃーと横に広げ、何ともいえない変な顔で、
「待ってるけぇ。」
と言った。
手をちぎれんばかりに振りながら。
終わり
今作も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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こむぎは赤いキャリ―リュックに入り、新幹線に乗って我が家に来ました!
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