パッチワーク 第1話
今回のお話『パッチワーク』は、おばあちゃんが夢中になって作っていた未完成のパッチワークによって、大きな愛に気づかされる少年の物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
【第1話】
「ばあちゃんっ! まだっ?」
リビングのソファーに腰掛けているばあちゃんにむかって、オレはいらついた声で怒鳴った。
「ちょっと待って。もう少しだから。」
のんびりとした調子でばあちゃんが答える。
パッチワークを縫い合わせる手を止める気配なんてこれっぽっちもみせずに。
「もう、腹へったよ。
腹へりすぎ。
限界。」
和室に敷かれた布団の上であぐらをくみ、ばあちゃんに猛烈にアピールする。
「そんなにお腹へったんなら、もう風邪は治ったみたいだね。」
オレのほうを見ようともせず、うまいこと話をそらす。
なにがなんでもパッチワークをここで止めるつもりはなさそうだ。
「午前中は寝てなさいって、おかあさんに言われたでしょ。」
そう言ってばあちゃんが指さす時計の針は、11時半。
オレは布団を頭からかぶり、ふて寝する。
「じゃあ、12時になったらすぐ食べられるようにしてよ!
12時ちょうどだよっ!」
と捨てぜりふをはくのは忘れなかった。
オレは一昨日から風邪をひき、中学校を休んでいる。
父さんも母さんも仕事に行き、じいちゃんも畑に行ってしまい、
今家にいるのはばあちゃんとオレと犬のピーチだけ。
ピーチはオレの足元で幸せそうにまどろんでいる。
ピーチは年寄りだから。
オレはピーチみたいに寝てばっかりなんていられない。
腹もへるし、テレビも見たい。
あー、ゲームしてぇ。
寝てるのなんて、もう飽き飽きだ。
ばあちゃんがオレの腹ペコよりも関心を寄せているパッチワークは、
色あせたブルーだとかグレーの生地を縫い合わせた年寄りくさい作品。
半年くらい前から作り始めていて、
作品展があさってからにせまっているから、なんとか完成させようと必死になって頑張っているのだ。
やたら大きな作品で、何を作っているのか聞いても、
「一世一代の大作だよ。
出来上がりを見たら、けんちゃんもびっくりするから。」
と言うだけで、教えてくれない。
あんな陰気くさい色の布きれ、どこがいいんだか、
とオレは思う。
そんなもの作るより、さっさと昼飯作ってくれればいいのに。
風邪薬を飲んでいるせいか、オレはいつのまにかウトウトとし、
12時を告げる鳩時計の音で目を覚ました。
布団をめくると、その上で眠っていたピーチが転げ落ち、キャインと大げさに鳴いた。
「だいじょうぶ? ピーチ!」
ピーチの声にばあちゃんが驚いた声をあげ、こっちを向いた。
その手にはまだパッチワークがあった。
だいじょうぶ、ピーチ? じゃないだろ!
「まだ昼飯作ってないの!」
「ごめん、ごめん。
あとちょっとで完成だから、つい夢中になっちゃって。
もう準備するからね。」
そう言いながら、ばあちゃんはやっと重い腰をあげた。
すぐに昼飯作りをしてくれるのかと思いきや、
「ピーチ、大丈夫?」
と、ピーチを抱き上げる。
「昨日からごはん食べてないんだよ。
ピーチにもけんちゃんの風邪がうつっちゃったのかねぇ。」
ばあちゃんとピーチの付き合いは、オレとよりも長い。
だからピーチのことを心配する気持ちもわかるけど、
ばあちゃん、オレは人間だぜ。
しかも、ばあちゃんと血のつながった孫。
まずオレの心配してくれよ。
「ばあちゃん、めしっ!」
オレは我慢の限界とばかりに怒鳴った。
「はい、はい、
昨日のおうどんの残り、温めなおすだけだから。
すぐできるよ。」
ピーチをそっとソファーに下ろし、
キッチンに立ったばあちゃんは手際良くお昼の準備を始めた。
「また、うどん?」
不満そうなオレの声に、
「夕飯はけんちゃんの好きなカツ丼作るから、お昼はこれで我慢してね。」
と、にっこり笑った。
「すぐあったまるから、けんちゃん、テーブルふいて。」
「オレ、病人なのに。」
口をとがらせながらも、しぶしぶばあちゃんの言葉に従った。
とにかく腹ペコで、一秒でも早くうどんが食べたかった。
ばあちゃんはオレの文句を聞き流し、
「ごはんが済んだら、獣医さんに連れてったほうがいいかねぇ。」
なんて言う。
パッチワークの次はピーチ。
ばあちゃんの関心は、どうやらいつもオレじゃなくて別のものにあるみたいだ。
ばあちゃんに構ってもらいたいわけじゃない。
ただ、病気のときくらい、一番に考えてくれてもいいのにって思う。
「ピーチ、ピーチって、オレよりピーチのがそんなに大切!?」
オレはついにぶち切れた。
怒鳴ってから、しまった、と思った。
ばあちゃんの顔をそっとうかがってみる。
目をぱちぱちさせている。
泣いてるのかな。
今のはちょっとまずかったよな、と思った。
けれど、すぐにばあちゃんはどんぶりにうどんをよそいだし、
うどんの良いにおいが鼻に流れこんできた。
お腹がとたんにグルグル鳴りだし、
まあいいか、うどん食べてから謝れば、
と嫌なことは後回しにすることにしてしまった。
やっと食べられると思ったその時、
どんぶりが床に落ちる大きな音がした。
「なにやってんだよ、ばあちゃん!」
オレはさっき後悔したばかりなのに、また怒りにまかせて怒鳴ってしまった。
せっかくのうどんが台無しじゃないか!
全身から力が抜けて、泣き出したい気分。
けれど、その思いも次の瞬間吹っ飛んだ。
ばあちゃんがオレの視界から消えたのだ。
さっきよりも大きな音とともに。
びっくりしたオレは、すぐに床に倒れたばあちゃんのもとにかけ寄った。
目をぎょろりと見開いて、天井の一点を見つめている。
ばあちゃん、と体を揺さぶっても反応しない。
えっ!
何が起こったんだ!?
オレにはさっぱり分からなかった。
もう一度、肩を揺すって「ばあちゃん」と呼びかけてみる。
ばあちゃんは目をぎょろぎょろさせるだけで、まったく動かない。
母さんに電話しようと思った。
けれどテレビドラマを思い出し、受話器を握ると、オレは迷わず119番をプッシュした。
次回に続きます。↓↓↓
妹の療養食がどうしても食べたい秋田犬ぱたこ
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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