パッチワーク 第4話(最終話)
『パッチワーク』は、おばあちゃんが夢中になって作っていた未完成のパッチワークによって、大きな愛に気づかされる少年の物語です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【第4話】(最終話)
どうやら、これはベッドカバーらしかった。
よく見ると、地味な生地のところどころに動物の形が縫い付けられている。
オレが動物好きだから喜ぶと思ったんだろう。
動物柄の布団で喜ぶほど、
オレはもう子どもじゃないよ、ばあちゃん。
ぽろぽろぽろぽろ、涙がほおを伝う。
ほんとに一世一代の大作だね。
びっくりしたよ。
ばあちゃん、ありがとう。
涙をぬぐいながら、オレは心の中でつぶやいた。
気持ちを落ち着かせ、
オレは『N』の文字を縫い付けてパッチワークを完成させようと思った。
さあ、と針を手に取ったけれど、何から始めたらいいのかさっぱりわからない。
ちんぷんかんぷんだ。
なんたって、オレの家庭科の成績、1だもんな。
ばあちゃん、それ知ってるだろ。
なんで最後まで 仕上げといてくれなかったんだよ。
天国のばあちゃんに言ってみる。
ばあちゃん、苦笑いしてるだろうな。
ピーチが足元に来て、クウンと鳴いた。
オレの顔を見上げている。
「なに、ピーチ。どうした?」
ピーチとばあちゃんは一番の仲良しだったからな。
さみしいんだよな。
抱き上げてソファーに上げてやると、
オレに寄りかかるようにしてすぐに眠ってしまった。
オレは、まず針に糸を通すところから悪戦苦闘した。
やっと通ったと思った喜びもつかの間、
次には玉結びという更なる難関が待ち受けていた。
でも、なにがなんでもこれはオレ自身でやらなければ、と心に決めていた。
ばあちゃんが頑張ってオレのためにここまで作ってくれたものだから。
ばあちゃんがこんなにもオレのことを思ってくれていたのに、
そのことにオレは全然気づいてなかった。
病気のオレより、パッチワークやピーチのことばかり気にしてるって勘違いして。
ばあちゃんが死んでしまってから気づくなんて、自分が本当に情けなかった。
涙をぬぐいながら、オレはがむしゃらに一針一針刺しこんだ。
何度も指に針を刺してしまったけれど、
あまりにも夢中になりすぎて、痛みなんてほとんど感じなかった。
「もう寝るよ。」
と、母さんが心配そうにオレの手元をのぞきこんだときには、夜中の十二時になっていた。
不細工ながらも、『N』の文字は三分の二ほど縫いついていた。
少し順調に縫えたかと思うと、
すぐに糸がからまってしまい、また一からやり直しということの連続だった。
パッチワークというのは、想像以上に難しかった。
ピーチはオレの横でパッチワークにくるまれるようにして、いびきをかいて眠っていた。
いつのまに眠ってしまったのか、
ピーチに顔をなめられて目を覚ますと、外はもう明るかった。
あわてて手元を見ると、
良かった、『N』の文字はどうにか最後まで縫いついていた。
なんとかやり遂げることができた。
少しゆがんではいるけれど、まあいいだろう。
オレにしては上出来だ。
オレはものすごい満足感に包まれた。
これを見たら、ばあちゃんはなんて言うだろう。
そう考えると、うれしい気持ちで心がいっぱいになった。
横で元気にしっぽを振っているピーチの頭をなでた。
何気なくなでてから気がついた。
ピーチがしっぽを振っている。
それも元気そうに。
オレは夢じゃないかと目をこすった。
昨日まで元気なかったのに。
試しに、オレはピーチのお皿にドッグフードを少し入れてやった。
昨日までだったら、ドッグフードを見ただけでピーチはそっぽを向いた。
けれど、今日のピーチはそれを嬉しそうにぺろっと食べてしまった。
「ピーチ! やったな、ご飯食べれたじゃん!」
オレは嬉しくて、嬉しくて踊りだしたい気分だった。
ピーチを抱き上げ、ほおずりした。
次の日曜日、オレは作品展をやっている市民会館に、ばあちゃんのパッチワークを持っていってみることにした。
作品展は一ヵ月間やっているって母さんが言っていたから、
もしかしたらまだ飾ってもらえるかもしれない。
市民会館に入ると、受付に座っていた太ったおばさんが、オレの顔を見るなりにこにこ笑いながら近寄ってきた。
「けんちゃんでしょ。」
「えっ! どうしてオレのこと知ってるんですか?」
オレは驚いて、目をまん丸くした。
「おばあちゃんに写真を見せてもらってたから。
自慢の孫だって。
ここにいる人たちはみんな、けんちゃんのこと知ってるよ。」
そう言いながら、正面にあるホールの入り口へとおばさんはオレの背中を押していった。
「けんちゃんが来てくれたよ!」
おばさんがホールの中に向かって大声をあげると、
壁に飾りつけられた作品に見入っていたおばさんたちが次々にオレの周りに集まってきた。
「けんちゃん、おばあちゃんは急なことで、本当にさみしくなっちゃったね。」
「ほんとに急で、びっくりしたよ。こ
の作品展にむけて、一緒にがんばってたのにね。」
「でもみんな、おばあちゃんのことはずっと憶えているから。」
みんながおばあちゃんが亡くなったショックを口にし、そしてオレをなぐさめてくれた。
「おばあちゃんの最後の作品、持ってきてくれたの?」
受付にいた太ったおばさんがオレに聞いた。
「えっ!?」
まさか、おばさんたちのほうからその話がでるとは思っていなかったので、オレは驚いた。
「みんな待ってたのよ。
おばあちゃんのパッチワークを。
なんといっても、今回の作品展の目玉なんだから!
けんちゃんのおばあちゃんのパッチワークが。」
「目玉?」
「そうだよ。
ほら、飾るスペースだって、ちゃんと空けてあるんだから。」
そう言っておばさんが指さす方を見ると、
正面の真ん中に何も飾られていない場所があった。
「一番いい場所なんだよ。
入り口から入ってきて、ほら、すぐに目につくでしょ。」
おばさんはにっこり笑った。
オレは嬉しくて胸がいっぱいになった。
こんなにもたくさんの人がばあちゃんのパッチワークを待っていてくれたなんて。
大変だったけど、がんばって完成させて良かったって心から思った。
あんまり上手にはできてないけど、ばあちゃんは許してくれるかな。
オレは持っていた紙袋の中からパッチワークを取り出し、おばさんたちに見えるように胸の前で広げた。
「ステキ! さすが、けんちゃんのおばあちゃんね。」
おばさんたちが感嘆の声をもらした。
「けんちゃんへの愛情がたっぷりね。」
オレは涙で視界がだんだんぼやけてきて、
「うん」と言うのが精一杯だった。
「けんちゃんの名前まで縫い付けてある。」
「うん。」
「あらっ、この『N』の文字。」
一人のおばさんがぶかっこうな『N』に気づき、みんながそれに注目した。
「けんちゃんが付けたの?
この『N』、最高にいいわ。
これがあるから、このパッチワークは世界一よ。」
みんながうなづいている。
ばあちゃんがオレのために作ってくれたパッチワーク。
そのパッチワークに顔をうずめて涙をぬぐいながら、オレは思った。
小さな布きれをつなぎ合わせるのと一緒に、ばあちゃんはみんなの心もつなぎ合わせてくれていたんだなって。
終わり
絨毯がないと上がれないこむぎと新品カーペットのセンターを取られてすねる秋田犬ぱたこ
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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