緊急指令「ごうりきさんを見つけろ!」第1話
緊急指令「ごうりきさんを見つけろ!」は柴犬のマメがドッグコミュニティの仲間たちと活躍するお話です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
【第1話】
ワオーン。
ワン、ワン、ワン、ワン、………
5時の時報が鳴り終わると同時に、ドッグコミュニティの集合合図が聞こえてきた。
ワオーン!
もう一度、 遠吠え。
その後の「ワン」の数に耳をすます。
ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン。
11回。今晩11時だ。
ここのところ世の中は平和で、集合はめったにかからない。
前回呼び出されたのは、たしか半年前。
秋田犬のアッキーが結婚した時だ。
今度はなんだろう。
子イヌでも産まれたのか。
昔も昔、まだ今のようにイヌの地位が確立されていなくてノラが多かった時代には、事件もしょっちゅうで、ドッグコミュニティは大活躍だったみたいだ。
けれど、今のこののんびりとした時代、それはほとんど役割を果たしていない。
かの有名なハチ公さんが人間との堅い信頼関係を築いて以来、多くのご先祖様たちが人間社会におけるイヌの地位を作り上げてきた。
その結果、家畜として飼われていたイヌはかわいがられるペットとなり、今では家族同様に扱われるまでになった。
食事も人間の残したものではなく専用のドッグフード。
人間のエステさながら、サロンでシャンプー、カットにマッサージ。
多くのイヌたちがこういった暮らしをするようになってきている。
そんな世の中だから、イヌ同士で協力しあう必要なんてまったくない。
ボクの名前はマメ。
3歳の柴犬。
毎日、朝はおかあさんと、夕方は5年生のしょうちゃんと散歩することになっている。
しょうちゃんは本当は「かつとし」って名前なんだけれど、漢字で「勝利」って書くから、みんなから「しょうちゃん」って呼ばれている。
「しょうり」って勝つって意味だけど、かけっこでもカードゲームでも、しょうちゃんはいつも負けている。
ちょっと残念なしょうちゃんだけど、ボクはけっこう好き。
だって、ボクにも負けてくれるから。
しょうちゃんとの散歩はボクがリードして、行きたいほうに引っ張っていくことができる。
しょうちゃんが嫌がるときもあるけれど、ボクが強引に引っ張って、しょうちゃんにいうことをきかせる。
だから、しょうちゃんはボクと散歩に行きたがらない。
さっき、夕方はしょうちゃんとさんぽすることになっているってあいまいな言いかたをしたのはそういう意味。
実際は夕方もほとんどおかあさんと行く。
そろそろ散歩に行く時間だなと思って準備体操をしていると、開けはなたれたリビングの窓から無線の声がもれてきた。
『午後2時から行方不明となっています大岩ごうりきさんは、まだ見つかっていません。
年齢は83歳。
行方不明になったときの服装は、上下グレーのジャージです。
大岩ごうりきさんは、いつもブツブツ呟いているそうです。
お見かけになられたかたは・・・。』
ジャージ姿の大岩ごうりきって! かなり強そう。
そんなことを思っていると、おかあさんがリードを手に出てきた。
家を出て田んぼに向かう途中の三叉路を曲がると、正面からマルチーズのマーズがやってくるのが見えた。
近付くマーズに、ボクはウインクしながら力強く11回吠えてアピールする。
マーズは、分かってるわ、と言うように、「くうん、くん」と答えた。
ひらひらと散って来た桜の花びらがボクの鼻先をかすめる。
春だなぁ。
空気がやわらかくて気持ち良い。
菜の花の黄色を背に、まっ白なマーズがはえる。
そのかわいらしくたれた耳元にも桜の花びらが一枚。
超、キュート!!
めまいがして、倒れそう。
マーズに見とれていたら、
「早く、行くよ!」
おかあさんに思い切りリードを引っ張られた。
ウグッ。
今度は苦しくて、本当に倒れそうになった。
今夜ね。
ボクの横を通りすぎるとき、そんな感じで目くばせしてマーズは行ってしまった。
縄張りチェックをしながら散歩を続けていると、クローバーの草むらから一番イヤなにおいがした。
まだつけられたばかりだ。
顔を上げて前を見ると、やっぱり。
あいつがいた。
ボクが一番嫌いなヤツ。
インテリを気取っているポメラニアンのラニアだ。
ボクはこいつが嫌いだけれど、最悪なことに飼い主同士は友だち。
今日もおしゃべりが始まってしまった。
ボクはラニアを無視して草むらに鼻をつっこむ。
でも、ラニアはいつものようにボクに話しかけてきた。
「マメ、君は今夜行くかい?」
「当然だろ。」
ボクは会話を長く続けさせないために、わざとそっけなく答えた。
「でも、どうせたいしたことじゃないだろ。」
「まあ、そうだろうね。」
「きっと、この前結婚したアッキーに子どもが産まれたとか、そんなような話だろうな。」
わっ! 同じこと考えてる、と思ったけれど、
「たぶん、そんなところだろうね。」
と、話が弾まないように、さらっと答えた。
「それでも行くのかい。」
「あたりまえだろ。
もしかしたら、もっと重大なことかもしれないし、それにマーズとも約束したから。」
しまった。
言うんじゃなかった。
「マーズも来るって!?」
思った通りラニアは食い付いてきてしまった。
ボクとラニアは恋のライバル。
ライバルにマーズの情報を与えてしまうなんて!
「それなら、おしゃれしていかないとな。」
ラニアはそう言うなり、リードをどんどん引っ張って、水たまり目がとっ突進した。
「ラニアちゃん、なにやってるの!」
飼い主が叫びながら慌ててラニアのリードを引き寄せた。
けれど遅かった。
「こんなに汚しちゃって。
おととい美容室に行ったばかりなのに、また行かなきゃいけないじゃない。」
ラニアはボクの方を見ると、作戦成功、とばかりに舌をちょろっと出した。
次回に続きます。
雨上がりの田んぼ道を水音を楽しみながら散歩する可愛い秋田犬姉妹
お話の舞台となった田んぼ道です!
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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