緊急指令「ごうりきさんを見つけろ!」第5話
緊急指令「ごうりきさんを見つけろ!」は柴犬のマメがドッグコミュニティの仲間たちと活躍するお話です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【第5話】
「大丈夫かい?」
ラニアが上から心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫よ。」
マーズが答えた。
「だけど、ここからは上にあがれそうもないよ。」
ボクが立ち上がってみても、地面はずっと上の方だった。
「どうしよう。」
「どうする?」
ボクとラニアがそんな押し問答をしていると、マーズがきっぱりとした口調で言った。
「ラニアはそのまま入り口を探して、雑木林の中に入って。
わたしたちはこの中を歩いて行って、上に上がれる所を探すから。」
ラニアが言葉につまったことが気配でわかった。
すると次の瞬間、ボクたちの上にラニアが降って来た。
「いったぁー!」
「なにやってんのラニア!
あなたまで落ちてきてどうするの!」
「ごめん、足が滑った。」
ボクにはわかってる。
わざと落ちてきたんだって。
「一人じゃ怖くて行けないんだろ。」
「そんなんじゃないさ。
本当に足が滑ったんだ。」
ラニアは見え透いた嘘を澄ました顔で言った。
ボクたちは側溝の中を雑木林の中心方面に向かって歩いた。
ここのところ雨が降っていなかったので、幸い側溝の中に水は流れていなかった。
その変わり、枯れ草の上からさらに生い茂った雑草の、複雑に絡み合った茎に足を取られたりして、とても歩きにくかった。
その上、側溝にふたのように覆いかぶさった枯れ草のせいで、中はまっ暗だった。
ボクとマーズが並んで歩き、その間に体半分遅れる感じでラニアがついてきた。
ごうりきさんの声がだんだん近づいてくる。
近づけば近づくほど、その叫び声は恐ろしかった。
もう、すぐそこにいるんじゃないかと思うくらいに声が近づくと、突然その叫びが消えた。
物音ひとつしない静かな世界は不気味だった。
不安を隠せない声でマーズがささやいた。
「どうしたのかしら?」
「死んじゃった?」
ラニアの言葉にボクたちは顔を見合わせた。
「急げっ!」
ボクはそう言うが早いか駆け出した。
マーズとラニアもダッシュをかけた。
でも、すぐに何かにぶつかり、ボクたちは次々と順番に尻もちをついた。
顔を上げると、そこには小さなおじいさんがしゃがんでいた。
草に紛れてしまっていて見えなかったのだ。
たぶんそのおじいさんは枯れ草をかき分けかき分け、向こうからやって来たのだろう。
そこから先の側溝には枯れ草のふたがなかった。
雲の隙間から顔を出した満月がボクたちを照らしだす。
おじいさんは驚いているボクたちを見て、嬉しそうに「アチョー」と叫んだ。
えっ!
この人がごうりきさん?
このやせっぽっちの小さなおじいさんが?
勝手に筋肉もりもりの強そうなおじいさんを想像していたボクたちは、呆気に取られてしまった。
立ち尽くすボクたちを見て、
いや、ボクたちと言うよりもマーズを見て、
ごうりきさんはもう一度「アチョー」と静かに言った。
そして、立ち上がるとマーズを抱きかかえ、
「アチョー、アチョー」
と、泣きながら頬ずりをした。
「アチョー、ここにいたのか?」
ごうりきさんの言葉に、
「この人、なんか勘違いしてる。」
と、困った様子でマーズがボクたちに向かって言った。
「そうか、そうか。寂しかったのか。」
マーズの声に答えるように、ごうりきさんは愛おしそうに頭をなでた。
「ボクが思うに。」
ラニアがいつものようにもったいぶって言った。
「アチョー、っていうのは、ごうりきさんの飼っている犬の名前だね。」
「そうか。それで、その犬はマーズに似てるんだ。」
「だから、マーズをアチョーと勘違いしてる。」
ボクとラニアは頷きあった。
「だから、どうするの? なんとかして!」
ごうりきさんの頬ずりに迷惑そうな顔で、上からマーズが助けを求めた。
「ちょっと我慢して。」
「どうしよう。」
ボクたちはどうするべきか、頭をフル回転させた。
とりあえず、この側溝の中から出なければどうにもならない。
ここの深さは、さっき落ちた場所よりも少し浅い。
助走をつけてジャンプすればボクなら上にあがれそうだ。
でも、マーズとラニアはどうする?
ごうりきさんが抱き上げてくれれば。
そこまで考えて、ボクは大きなミスに気がついた。
ボクたちが脱出できたとしても、ごうりきさんはどうする?
とっても小さくて、やせっぽっちで、どう見ても自分でよじ登れそうにない。
次回に続きます。
怖いけど 覗いてみたい 用水路【Akita-inu】Scary but interested
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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