チビの愛 第2話

「チビの愛」は昭和が舞台の、母犬の愛情物語です。

私自身の幼少期の思い出をもとに創作しました。

こんにちは。

秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。

今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

 

第1話がまだの方はこちらからどうぞ

↓ ↓ ↓

チビの愛 第1話

 

【 第2話 】

(ゴンとの別れ)

「チビ」と名の付いたその犬は、しばらくすると小さな小屋と赤い首輪を与えられ、一人前の番犬としてクサリに繋がれた。

チビはやっと安住の地を得て落ち着いた。

クサリに繋がれたチビの一日は、単調に、平和に流れていった。

朝、子どもたちが学校に出かけると、奥さんが味噌汁をかけたご飯を持って来てくれる。

これは山で食べていたエサと同じものだった。

山にいる時、チビはこのエサが嫌いでよく残した。

美味しい肉や魚だけ食べて母犬のところに行くと、育ち盛りのチビのために母犬は自分の肉や魚を分けてくれたのだ。

そんな事を思い出しながら食べると、あんなにまずいと思っていた味噌汁ご飯も、懐かしく、ほのかに甘い母犬の匂いのようで、特別な味に感じられた。

朝ご飯を食べ終わると、主人がクサリを外してくれる。

チビはゴンをしり目に、一目散に空き地へと駆けて行く。

朝の爽やかな空気を胸一杯に吸い込み、原っぱを思いっきり走り回る。

時々立ち止まって後ろを振り向くのは、アヤとミチを探しているようでもあり、

また、いつも後ろを走っていた母犬が、今も自分の後ろについて来ているのではないか、という錯覚にとらわれているようでもあった。

一瞬立ち尽くすチビの耳に、主人の口笛の音が響く。

もう仕事が始まるから帰って来いという合図だ。

再びクサリに繋がれたチビは、工場の中で騒がしくがなり立てるラジオの音を耳に、日陰に身を横たえて昼寝を始めた。

そうしてチビが何度目かの昼寝から目覚めると、ミチが幼稚園から帰って来る。

手を洗いに行き、おやつを食べ始めると、

窓を開けて「チビにもあげる」

とお菓子を二、三個投げてくれる。

そしておやつが終わる頃になると、今度はアヤが帰って来る。

また、同じように手を洗い、おやつを食べ始めると、

窓を開けて「チビにもあげる」

と同じようにお菓子を二、三個投げてくれるのだった。

それを見ているミチはいつも決まって、

「お姉ちゃん、私にもちょうだい。」

と甘ったるい声を出す。

「ミチはもう食べたでしょ。」

とアヤの素気ない声。

そしてミチの泣き声。

私のをひとつ分けてあげようか、というような顔をしているチビになど、部屋の中でもめている姉妹は全く気付かない。

そうなることが分かっているので、奥さんは最初からお菓子を少し残しておき、おかわりとして二人に分けてミチをなだめた。

「ミチにももう少しあげるね。」

その一言でミチは笑顔になった。

 

ある日、アヤとミチはいつものように二匹の犬と一緒に隣の空き地で遊んでいた。

ただこの日は、何故かゴンも、アヤとミチの側を離れようとしなかった。

一緒に遊ぶでもなく、二人の姿をじっと見守っている。

アヤもミチも不思議に思い、ゴンの首に手を回し、顔を覗き込んだ。

ゴンの小さな瞳は潤んでいた。

「どうしたの? ゴン。」

「ゴンも一緒に遊ぼうよ。」

手を叩いて呼んでも、背中を押しても、一向に動こうとはしなかった。

太陽が西に傾いて来た。

ゴンは耳をピクリとさせ、こちらに走って来る電車の微かな振動を確認すると、いつものように鼻を天に向け、

「ウワォーン」

と遠吠えをした。

いつものように吠えたかと思われた。

けれど、ゴンは奇妙な音を立てて咳込んだかと思うと、真っ赤な血を吐き、その場に倒れ込んでしまった。

手足を投げ出して横たわったまま、一向に動く気配がない。

アヤもミチも体を強張らせ、ゴンをじっと見つめたままその場に立ち尽くした。

空を真っ赤に埋め尽くす赤とんぼの赤よりも、もっと鮮烈な赤い血に、二人とも恐れを抱いた。

チビはゴンの尻尾の側に座ると、天を仰ぎ、

「ウワオーン!」

と遠吠えを一度だけした。

その時、ゴンのお腹がほんの少し波打つように動いたかと思うと、ゴンは再び口から鮮血を吐き出した。

アヤは顔を背け、ミチはこらえるように泣きながらアヤにしがみついた。

「ボオーッ」

汽笛を鳴らしながら、夜を告げる列車がやって来た。

今のが、ゴンの最期の遠吠えだと二人が悟ると、塀の隙間から母の呼び声がした。

アヤもミチも顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら母の元へと走った。

ゴンはこの家に赤ん坊の頃からいた。

アヤもミチも小さなゴンに哺乳びんでミルクを飲ませ、スプーンでおかゆを与え、可愛がってきたのに、死の直前には恐ろしくて近寄る事も出来なかった。

最後に名前を呼んで、優しく頭を撫でてやりたかったのに、何故か出来なかった。

二人ともそれが悔しかった。

 

第3話はこちらからどうぞ

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チビの愛 第3話

 

毎月15日のお楽しみ、フィラリア症予防薬

ゴンもチビも昭和40年代に実在した犬たちです。

若くして亡くなったゴンの死因はフィラリアだったかと思います。

悲しい思いをしないために、フィラリア症予防薬の飲み忘れにはご注意ください!

 

今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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