チビの愛 第3話
「チビの愛」は昭和が舞台の、母犬の愛情物語です。
私自身の幼少期の思い出をもとに創作しました。

こんにちは。
秋田犬と暮らして23年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
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【 第3話 】
(母になったチビ)
一ヶ月後、チビは五匹の子犬を産んだ。
ゴンとの間に出来た子犬だった。
チビは食事とトイレの時以外は子犬たちの側を離れなかった。
子犬たちに思う存分おっぱいを飲ませ、その後は丁寧に一匹ずつお尻を優しくなめ、排便させてやった。
子犬たちは昼も夜も関係なく、お腹が空けばキューキュー鳴いてチビのおっぱいを探した。
チビは眠くても、お腹が空いていても、我慢して、いつでも子犬たちの要求に応じた。
母犬となったチビにとって、子犬たちの要求は、どんなに辛い事でも我慢とは感じなかった。
チビの子犬を思う愛が、母性がそうさせたのだ。
子犬たちはチビの愛情を全身に浴び、心ゆくまでおっぱいを飲み、チビの暖かい毛皮に包まれ、丸々と愛らしく育った。
元気な子犬たちはいつまでも小屋の中にはいなかった。
犬小屋から外に出るには五センチほどの段差があるのだが、そんな事などなんら気にする風もなく、子犬たちは次々と転げ落ちていった。
小さな毛のかたまりが、それぞれ好き勝手な所へと走って行ってしまう。
ここには危険のない事を承知しているチビは、子犬たちが自分の視野にある限り優しく見守った。

クローバーの草むらに鼻を突っ込み、転げ回る子犬。
工場の中に無雑作に置かれたブロックの上に、乗っては飛び降りて遊ぶ子犬。
作業する主人のズボンの裾を引っ張って遊ぶ子犬。
子犬同士でじゃれ合い、「ワン、ワン」と一人前の声をあげているものもいる。
子犬たちの中で一番ちゃっかり者の真っ黒い子犬は、玄関の開き戸がほんの少し開いているのを見付けると、鼻先でこじ開け、家の中へと入って行った。
この犬は一番最後に産まれたメス犬なのだが、何故か発育が良く、一番大きな体をしている。
チビにもゴンにも似ていない真っ黒な毛並みだけれど、愛らしい顔をしていて、この犬だけがアヤとミチに「クロ」という名を付けてもらっていた。
クロは自分の背丈ほどもある玄関の敷居を、そこに置いてある運動靴などを踏み台によじ登ると、家の中にいるはずである奥さんを探した。
そうしていつも自分だけちゃっかりおやつをもらうのだ。
チビはしばらくすると吠えた。
クロに対して、戻って来いという合図だ。
他の子犬たちは、姿を隠してもすぐにチビの元へ戻って来た。
けれど、クロだけはチビの元から離れて、一人で何処までも行ってしまうのだ。
こんな向こう見ずなクロが、チビには心配の種でもあり、頼もしくもあり、一番可愛い様子だった。
可愛い盛りとなった子犬たちは新しい飼い主の元へと貰われて行った。
けれど、たった一匹クロは、アヤとミチの強い要望で、母犬の元でこのまま暮らす事となった。
クロは兄弟たちのおっぱいも一人占めにし、今まで通り母の胸に抱かれて眠った。
チビは一匹残ったクロをより一層愛した。
かつて自分が母からそうして貰ったように、朝の味噌汁の中に卵のかけらが入っていればクロにやり、おやつに煮干しを貰えば、自分は全く口をつけずに、全てクロに食べさせた。
クロがおっぱいよりも肉を好むようになった時、チビはクロが離れてしまったような寂しさを感じ、悲しい瞳をした。
クロの体がチビの半分くらいの大きさになった時、主人はかつてゴンが使っていた犬小屋にクロを移し、クサリでつないだ。
夜になると二匹は悲しい声で鳴いた。
まるで、一緒に眠りたいと言っているかのようだった。
あまりにもの悲しい響きに、主人は夜だけ二匹をクサリから放ち、好きな場所で一緒に眠れるようにしてやった。
一度出産をし、子どもを持っただけでこうも変わるものなのか。
つい半年ほど前までは、自分が子どもで、主人や奥さん、或いは身近なアヤやミチに母を求めていたチビが、子犬を持った瞬間に母になりきった。
その変わり身の早さには驚くべきものがある。
アヤとミチと空き地に遊びに出ても、今ではすっかりクロの影となり、アヤやミチに甘える時にも一歩引いている。
それどころか、不思議なもので、クロばかりでなく、アヤやミチを庇護する母親のような風格さえ漂わせている。
アヤやミチが危ない遊びをしようとした時、今までなら一緒になってやっていたような事でも、少しでも危険が伴うと感じれば吠えてたしなめた。
クロと一緒に駆け回って遊びながらも、危険な場所に足を踏み入れないように絶えず気を配っているようだった。
チビとクロの時間は何の変化もなく平穏に流れた。
アヤとミチがチビと遊んでいるのを、偶然目にした犬好きの老人が、何でもチビはアイヌ犬という立派な種の犬で、同じ犬種との間に子犬を産めば、いくらかの金額で犬屋が買ってくれるだろう事を主人に話した。
チビはそのため何度となく出産を繰り返し、その度に子犬におっぱいを飲ませ、母としての幸せを満喫する事が出来た。
どの子犬も数カ月もすれば、皆チビから引き離されてしまったが、それでもチビにはクロがいた。
いくら大きくなったとはいえ、チビにとっては、クロはやはり可愛い子どものようであった。
チビはいつもクロの後ろを走っていた。
じゃれ合う時には、チビがいつも寝転び、飽きる事なくクロの相手になってやった。
血気盛んなクロは、ふざけているうちに誤って母の体を傷つけてしまった事もあった。
けれど、チビはじっと我慢し、クロを責めたてた事など一度もなかった。
やがて時が経ち、クロもチビと同じように出産するようになった。
二匹はいつも、ほぼ同時期に出産し、同時期に子犬と引き離された。
子犬と引き離された直後の二匹は、まるでお互いを慰め合うかのように、肌を合わせて眠っていた。
引き離された最初の夜の遠吠えは、あくまでも悲しい。
それが二匹重なるのだから、アヤとミチは心にしみいる鳴き声に、涙を誘われる事もあった。
「おかあさんも、私たちがいなくなっちゃったら、あんな風に泣くのかなあ?」
ミチが鼻をすすりながら言った。
「きっと、そうだよ。」
アヤが答えた。
「子犬たちも皆泣いてるよ。ミチだっておかあさんいなくなっちゃったら泣いちゃうもん。」
ミチはそれだけ言うと、大粒の涙を次々とこぼした。
「皆、家で飼えるといいのにね。」
アヤも目頭が熱くなるのを感じ、涙を必死でこらえながら言った。
二人は我慢出来なくなり、それぞれのベッドを抜け出して、母の寝室へと駆け込み、母の両脇に体をぴったりとくっ付けて眠った。
第4話に続きます。
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ぱたこは出産経験はありませんが、小さなこむぎをしっかり育ててくれました!
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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