クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第一話)

クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~は、小6のサエが秋田犬のマルや近所のいくちゃんと自然の中で過ごすうち、バレエを踊る純粋な喜びに気づき、再び情熱を取り戻すお話です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
(第一話)
小学六年生になる春休み、サエは三歳年下の妹のミナと二人だけで島に住むばあちゃんの家に行くことになった。
ばあちゃんが足首をねんざしてしまったからだ。
「お手伝いしてきて」
母さんはそう言って二人を送り出した。
ばあちゃんは島の高台に一人で暮らしている。二年前にじいちゃんが亡くなってから、ずっと一人だ。
サエの心の中にあるばあちゃんの記憶。それは、まだ小さかったころの記憶と、じいちゃんのお葬式の時の悲しみにしずんだ姿。その時のばあちゃんはげっそりとやつれていて、能面みたいに表情がなかった。
ばあちゃんは元気になっているんだろうか? お葬式の時のままだったらどうしよう。
島に渡るフェリーの中で、心地良い潮風を身体に受けながらもサエの心は重かった。
そんな姉の気持ちなど知るよしもなく、ミナは楽しそうにおかしを食べていた。
島の空気はやわらかい感じがした。
優しい風に一面の菜の花がゆれ、まるで楽しそうにダンスをおどっているように見える。
ばあちゃんの家までの道はずっと坂道だ。黄色いおどり子たちの間を進んで行くと、突き当たりに大きな木が見えた。
「ほら、あの木の横の家だよ!」
さえは大木を指さしながらミナに言った。
古くて小さい、まるでばあちゃんみたいな家。
大きく深呼吸し、玄関の戸に手をかけようとした瞬間、ガラッと戸が開いた。
「おそかったねぇ」
ばあちゃんはにっこり笑って立っていた。
足首にはサポーター。でも、もうお葬式の時とは違う元気なばあちゃんにもどっていて、サエはほっとした。
「ほら、ぼーっとしてないで入っといで!」

そう言うばあちゃんのとなりには、まるでぬいぐるみのような大きな茶色い犬がおぎょうぎ良く座っていた。座っていてもばあちゃんの胸くらいの位置に顔があり、その顔はばあちゃんよりも大きい。
「マルッ!!」
そうだ、マルがいた!
サエが呼びかけると、マルはゆっくりとしっぽを振った。うれしそうに耳を下げ、優しい三角の瞳でサエの顔をじっと見つめている。
そのかわいさにサエは思わず抱きついて頬ずりした。
マルはいやがるふうも無く、サエのほっぺをぺろっとなめた。
マルはもふもふの秋田犬。二本足で立ち上がると、たぶんサエの身長と同じくらいの大きさだ。
「さあさあ、いつまでもつっ立ってないで入っといで」
ばあちゃんはそう言いながら、マルのあまりの大きさに少ししり込みしているミナの手を取った。
サエはマルにうずめていた顔を上げてばあちゃんを見上げる。
ばあちゃんとマルの笑顔はそっくりだった。
歩くとミシミシ音のする板張りの廊下を三歩進んで入った部屋は、懐かしいばあちゃんの匂いであふれていた。
ばあちゃんの匂いというか、マルの匂い?どっちでもいいけど、ほっとする匂い。
ミナはさっきまでの元気はどこへやら、人が変わったようにおとなしい。それでも、ばあちゃんに引っ張られて入った部屋でこたつを見つけると目を輝かせた。
「これってこたつ!? こたつだよね!?」
家にはないこたつはミナのあこがれ。テレビアニメで見る度に、いつも入ってみたいと思っていたのだ。
「ばあちゃん、こたつに入っていい?」
「もちろん」
と言われると同時に、ミナはばあちゃんの手を振りほどき、こたつの中にもぐりこんだ。
「ミナちゃん、そりゃ使い方ちがうよ!」
大笑いするばあちゃんの声に答えるように、
「まっくらけー!」
と言いながら、ミナは反対側から顔を出した。
マルは遊んでもらえると思ったのか、ミナの顔の前でフセをすると、さっきよりも勢いよくしっぽを振った。
あこがれのこたつに入ることでいつもの元気を取りもどしたミナは、こたつからはい出ると、マルの背中に横からおおいかぶさった。
マルはいやがる様子など全く見せず、逆に体をごろんと横に向けて、ミナをだきかかえるようにした。
ミナが笑い、サエも笑った。
「よかったね、マル。友だちができて」
とばあちゃんも笑った。
「ばあちゃん、これ」
サエはリュックの中からおやつの包みを取り出した。じいちゃんにお供えするように母さんから預かってきた物だ。
「ありがと。じゃあ、じいちゃんにあげてくれるかね。」
ばあちゃんが振り返った視線の先には、お仏だんの中で笑っているじいちゃんの写真。
優しかったじいちゃんの懐かしい笑顔。
もうあの笑い声を聞けないのかと思うと、サエの胸はキュッと痛んだ。
お菓子をじいちゃんの写真の前にお供えし、お鈴を一回鳴らすと手を合わせる。「チーン」と家中に響く澄んだ音が鳴りやまないうちに、後ろで元気なミナの声がした。
「ばあちゃん、お菓子の箱開けていい!?」
今お供えしたばかりなのに。
「だめだよ」
とサエが言うと、
「いいよ、いいよ、じいちゃんと半分こしようかね。」
とばあちゃんはまた笑った。
お供えはサエもミナも大好きなマドレーヌだった。
「サエちゃん、大好きなバレエは頑張ってるかい?」
ばあちゃんの声はとっても優しいのに、サエの胸はズキンと痛んだ。
「うん……」
口ごもるサエの声にかぶせるように、
「わたしはがんばってるよ!」
とミナが自慢げに言った。
第二話に続く
玄関前まで誘導して、最高の笑顔でお出迎えする秋田犬姉妹🐕💕Akita Sisters Guide Us Home and Welcome Us with Their Biggest Smiles
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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