クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第二話)

クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~は、小6のサエが秋田犬のマルや近所のいくちゃんと自然の中で過ごすうち、バレエを踊る純粋な喜びに気づき、再び情熱を取り戻すお話です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
第1話はこちらから↓↓↓
クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第一話)
(第二話)
おやつを食べてお腹が満たされると、慣れないフェリーに乗った疲れも重なって、いつのまにか二人はこたつで眠ってしまっていた。
「夕飯だよ」
と言うばあちゃんの声で目を覚ましたサエの目の前には大きなマルの顔があった。
ミナは?、と見ると、マルの大きなお尻の中に顔をうずめて眠っていた。
その光景にクスッと笑いながらも、サエもマルの暖かくてやわらかいほっぺに顔をうずめた。
「ほらほら、起きて手伝って」
ばあちゃんはあきれた顔をしながらもうれしそうだった。
しかたなくサエがこたつから起き上がると、マルも後についてきた。マルがいなくなってミナも目をさまし、寝ぼけまなこのまま目をこすった。
夕飯は魚の煮つけとお味噌汁だった。
「今朝、いくちゃんが届けてくれたんだよ。」
魚がメインのおかずに不満げなサエとミナの表情を読み取ってばあちゃんが言った。
「いくちゃんの父さんが今朝の漁でとってきたばかりだから、新鮮でおいしいよ。」
ばあちゃんはミナの魚の骨を取りながら言う。
「いくちゃんて、だれ?」
サエもばあちゃんのやるように魚をほぐしながら聞いた。
「あれ、おぼえてないかい? おとなりさんだよ。サエと同い年で、前来た時、一緒に遊んだ。」
「そうだっけ?」
サエは魚を口に運びながら記憶をたどった。
そういえば、そんな子がいたかもしれない。私のこと、覚えてるかな?
「ばあちゃんは坂道を下って買い物に行けんから、今晩はこれで我慢しておくれ。」
「でもおいしいよ、このお魚!」
ミナはばあちゃんがほぐしてくれた魚を夢中になってほおばっている。
「うん、たしかにおいしい。」
そんなに魚が好きではないサエも本心からそう思った。
「いくちゃんのおとうさんに感謝だね。」
「そうだよ。でもいつまでも甘えてられないから、明日からはサエとミナで買い物お願いね。」
「あー、それね。」
二人がここに来た理由を思い出し、サエは一気に現実にもどされた。
生意気なだけで何の役にも立たないミナと二人でばあちゃんの手伝いって。
明日からの毎日が思いやられた。
そのとき、台所でドッグフードを食べていたマルが低い声で「ワンッ」と鳴いた。
「そうそう、それも忘れちゃいけないね。」
マルの方を振り向きながら言うばあちゃんの言葉に、二人は首をかしげた。
「マルの散歩もたのんだよ。」
茶目っ気たっぷりにいうばあちゃんの言葉に反応するように、マルはしっぽをぶんぶん振った。
ミナはいつも早起きだ。
「サーちゃん、いつまで寝てんの!」
いつものミナの叫び声にサエが反応して寝返りをうつと、ペロッと温かいものがほっぺに触れた。
びっくりして飛び起きたサエの正面には大きな犬!
「マル」
そうだ、ばあちゃんの家に来てたんだ。
「マル、おはよ」
おぎょうぎ良く座ってサエの目をじっと見つめるマルの顔にサエはほおずりした。
となりの部屋では、ミナとばあちゃんがこたつに入ってすでに朝ご飯を食べ始めていた。
卵焼きの甘い匂いに、サエのお腹がグーッっと鳴る。
「早く起きないとぜんぶ食べちゃうよ。」
ミナのいじわるな言葉に、
「ちゃんと分けてあるから大丈夫だよ。」
とばあちゃんが笑った。
そのとき、玄関の戸がギシギシ開き、
「おはよー!」
という元気な声が飛び込んできた。
「おはよ、いくちゃん」
ばあちゃんがそう答えるより先にマルが立ち上がってうれしそうに玄関に行く。
「おはよ、マル」
マルはいくちゃんの手の中にある魚の切り身をペロッと食べると、「もっと」と言うようにいくちゃんの前でお座りした。
そんなマルに、いくちゃんは手を大きく開いて、
「もうないよ」
と見せた。
いくちゃんはマルをしたがえてこたつの部屋に入ってくると、
「これ、父ちゃんから」
と、魚の入ったビニール袋をばあちゃんに差し出した。
「いつもありがとね」
と受け取るばあちゃんの声にかぶせるように、
「いくちゃん、おはよ!」
と、ミナが元気よく言った。
「ミナちゃん?」
と聞くいくちゃんに、
「そう! で、あっちがサエ」
と、まだパジャマで布団の上にいるサエを指さした。
みんなの視線をいっせいに浴びたサエの顔は真っ赤になった。
寝ぼすけな姿を見られたくなかったのに。
ミナはいつだってそうだ。しゃしゃり出てきてよけいな事をする。
恥ずかしいのと同時に、ミナのおせっかいな一言に腹が立ち、サエはいくちゃんにあいさつもせずに布団を頭からかぶって寝たふりをした。
「きのうのフェリーで疲れてるんだよ」
とばあちゃんがサエをかばってくれた。
「サエちゃん、あとでマルの散歩、一緒に行こうね!」
いくちゃんは布団の中のサエに声をかけると帰っていった。
「よけいなこと、言わないでよね!」
いくちゃんが玄関を出て行く音を確認してから、サエはミナに怒鳴った。
ミナの一言が無ければ、いくちゃんは私に気づかなかったのに。
「なんで! サーちゃんが寝ぼすけなのが悪いんじゃん」
ミナには謝る気なんてさらさらなさそうだ。
「大丈夫だよ。いくちゃんはそんな事気にしないから」
と、けんかになりそうな二人の間にばあちゃんがあわてて入った。
「いいかい、まず首に通して、」
と、マルに散歩用のハーネスをつける準備を玄関でしていると、
「行けるー?」
と言いながらいくちゃんが入って来た。
「ちょっと待ってね。」
ばあちゃんはマルにつながった肩掛けリードをサエの首にかけようとしたが、心配そうに動きを止めた。
「どうする? 今日はいくちゃんに持ってもらうかい?」
「大丈夫、できるよ」
さっきの恥ずかしい姿をばんかいしようと、サエはばあちゃんからリードを受け取って自分の肩にかけてはみたけれど、内心不安だった。
自分で犬の散歩なんて、一度もしたことがない。小さいころにばあちゃんと一緒に行ったマルの散歩の記憶をたよりにするしかない。
でも、きっと大丈夫。
うれしそうにしっぽをぶんぶん振りながらサエを見つめるマルの様子に、心の中でつぶやいた。
「どっちに行く?」
玄関を出ると、いくちゃんはマルに聞いた。
その様子に、サエもミナもふき出してしまった。
「マルは人間の言葉が全部わかるんだよ。」
とにっこり笑ういくちゃんの言葉に答えるように、マルは「ハフッ」と言いながらサエの顔を見上げた。
「今日はサエちゃんの好きな方に行っていいって言ってるよ。」
優しいマルのまなざしはたしかにそう言っているようにサエにも感じられた。
「上に行くと公園で、下に行くと海やお店だけど、どっちにする?」
「じゃあ公園」
とサエがいうが早いか、マルはなだらかな坂道を上に向かって歩き始めた。

第三話に続く
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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