クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第三話)

クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~は、小6のサエが秋田犬のマルや近所のいくちゃんと自然の中で過ごすうち、バレエを踊る純粋な喜びに気づき、再び情熱を取り戻すお話です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
第1話はこちらから↓↓↓
クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第一話)
前回はこちらから↓↓↓
クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第二話)
(第三話)
菜の花をゆらす潮風は今日もほんのりしょっぱい。
マルはリーダーの風格で意気ようようとみんなの前を歩く。
ミナは見るもの全てがものめずらしいようで、目をキラキラさせて先に一人で走って行ってしまった。
サエは朝のことが胸につっかかっていて、自分からいくちゃんに話しかけられずにいた。マルに気を取られている風をよそおって、やたらマルの名前を呼んた。
その度にマルは「なに?」という風に振り向いてサエの顔を見つめる。
「マルはおりこうさんだね。」
いくちゃんの言葉に、マルは振り向きもせずにしっぽだけ振った。
「はやくー!」
先に行ったミナが曲がり角のところで手を振っている。
「白い花がいっぱい!! とってもいい?」
息をきらしながらさけぶ。
「いいよー」
といくちゃんもさけび返し、
「サエちゃん、マル、行こ!」
と走り出した。
走り出すマルに引っ張られるようにしてサエも走る。
なんか久しぶりに走る気がする。
バレエを習っているサエは、体力作りのために毎日ランニングをしていた。けれど、バレエの発表会の配役が決まった2月以降、練習をさぼりがちになり、自主練のランニングも止めてしまっていた。
マルと一緒に走り、角を曲がると信じられない景色が目に飛び込んできた。
一面真っ白なお花畑。そしてその向こうには水色の空と真っ青な海。空と海の間には緑の畑と黄色い菜の花。
前に見た映画の中のワンシーンのようなきれいな光景に、言葉を失って立ちつくすサエの横で、マルはおぎょうぎ良くおすわりした。「きれいでしょ」と自慢でもするかのように。
「見て、見て!」
両手に花束をにぎりしめてミナがかけよってきた。
「シロツメクサだよ」
いくちゃんの言葉に、
「シロツメクサ?」
とミナはくり返した。
「うん、シロツメクサ。それで花かんむり編んだげようか?」
「あめるの?」
ミナは尊敬のまなざしでいくちゃんを見つめた。
「かんたんだよ」
三人は海を背にしてベンチに腰かけた。
いくちゃんの手の中でどんどんつながっていく花たちに、サエとミナは目がくぎづけになった。
「でも、これってクローバーじゃない?」
サエはシロツメクサの周りに生えているクローバーを指さし何気なくつぶやいた。
「シロツメクサってクローバーなんだよ!」
いくちゃんは一瞬だけ手を止め、サエを見てほほえんだ。
「そうなんだ」
「知らんかった?」
いくちゃんは完成間近の花かんむりに目をもどして編み進める。
「うん、知らんかった。すごいね! いくちゃん、何でも知ってて!」
サエは心の底から素直にそう思った。
「何でもって!?」
いくちゃんは笑いながらもう一度サエに顔を向けた。
「だって、マルの気持ちもわかるじゃん」
「それは、マルと一緒にいればサエちゃんだってすぐに分かるようになるよ!」
「そうかなぁ?」
ほんとかどうかは別として、そうなればいいな、とサエは思った。
そんなサエの横でマルは気持ち良さそうに眠っている。
「できた?」
輪っかになって、最後の止め編みをしようとしたところで、ミナが待ちきれずに聞いた。
「うん、もうできるから。ミナちゃん、あそこのタンポポとってきて。」
言われるが早いか、ミナはベンチから飛びおりてタンポポ目がけていちもくさんに走った。
「一輪でいいからね!」
すでに三輪目をつもうとしていたミナは手を止め、今度は鼻歌まじりにスキップしながらもどってきた。その流れで優雅な仕草でタンポポをいくちゃんに差し出す。
「えっ! それってもしかして『くるみ割り人形』の曲?」
タンポポを受け取りながら、いくちゃんは目をかがやかせた。
「いくちゃん知ってんの?」
「知ってるよ! 小さいころバレエ習ってたから」
「えーっ!」
サエとミナは顔を見合わせた。
「じゃあ、踊れるの?」
「もう忘れちゃったよ。」
と言いながら、いくちゃんは白の花とグリーンの茎の清楚な花かんむりに、黄色のたんぽぽを一輪さし、ミナの頭にのせた。
「見てて!」
花かんむりをのせたミナはプリマドンナ気取りで二人の前で踊り始めた。

「ヘタなくせに」
とサエはミナに背を向けて海を見つめた。
眠っていたマルは首をほんの少し横に向けて、サエの顔をチラッと見た。
「えっ、上手だよ!」
といくちゃんははく手をした。
「今度の発表会で踊るんだ!」
ミナは得意げにそう言い、
「ミナはクララで、サーちゃんはネズミの王様」
と、よけいな一言をまた付け足した。
「うるさいっ!」
サエの怒鳴り声が辺り一面に響き渡り、いくちゃんとミナだけでなく、風にゆれていたシロツメクサたちも凍り付いたように動きを止めた。
そんな中でマルだけがのっそりと起き上がり、うつむいているサエの顔をのぞきこんだ。ひざの上できつくにぎりしめられている手の上に、一粒の涙がポトンと落ちると、マルはそれをペロッとなめた。
すると、まるでそれがスイッチだったかのように、サエは大声で泣き始めた。涙が次から次へとあふれてくる。
「サエちゃん、だいじょうぶ?」
と心配するいくちゃんの言葉に答えようとすると、さらに涙があふれてきて、それはおえつになって消えた。
どんどんあふれ落ちてくる涙を、マルはていねいに、まるでなぐさめるように優しくなめた。
いくちゃんもサエの隣で海に向かって座り直し、泣き止むのを静かに待っていてくれる。
その隣では花かんむりを膝の上にのせ、ミナまでもが神妙な面持ちでじっと座っていた。
ひとしきり泣いて涙もかれたサエは、
「本当は私の役なのに」
としゃくりあげながらつぶやいた。
第四話に続く
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