クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第四話)

クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~は、小6のサエが秋田犬のマルや近所のいくちゃんと自然の中で過ごすうち、バレエを踊る純粋な喜びに気づき、再び情熱を取り戻すお話です。
こんにちは。
秋田犬と暮らして24年、2頭の秋田犬を天国に見送り、現在2頭の秋田犬、虎毛の『ぱたこ』と赤毛の『こむぎ』との日々を楽しんでいるぱたこ母です。
今回も最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
第1話はこちらから↓↓↓
クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第一話)
前回はこちらから↓↓↓
クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第三話)
(第四話)
「えっ?」
と聞き返すいくちゃんに、
「この前はさーちゃんだったけど、今年はミナがクララに選ばれたんだから、しょうがないじゃん。」
とミナが口をとがらせた。
「順番だよ」と。
サエとミナが通っているバレエスクールでは毎年夏休みに発表会が行われ、そのメインの演目として必ず『くるみ割り人形』が演じられのがこう例だった。昨年、主役のクララを演じたサエは、「今年も絶対選ばれる」と心に強く決め、毎日のストレッチを欠かさなかったし、基本動作の練習も頑張ってきた。
それなのに、、、。
サエの気持ちがなんとなく重いのは、お葬式の時のばあちゃんの顔が無表情だったせいでも、いくちゃんにはずかしい姿を見られたせいでもなく、よりにもよって年下の妹に主役の座をうばわれたからだった。
「でも、すごいじゃん、ネズミの王様って。」
予想外のことを言ういくちゃんの顔を、サエとミナは同時に見つめた。
「だって、悪役のが難しいんだよ。先生がそう言ってたもん。」
「えっ? 先生って?」
サエは泣いて赤くはれた目をこすりながら聞いた。
「バレエの先生だよ。この島に引っ越して来る前に習ってた時の。」
「悪役のが難しいんだ。」
サエはつぶやきながら、その言葉をかみしめた。
「そう、だからネズミの王様やるって、サエちゃんすごいよ!」
サエはネズミの王様の踊りを思い出しながら、小さくうなづいた。
「いくちゃんはなんでやめちゃったの?」
花かんむりを頭にのせながらミナが聞いた。
「だって、この島にはないから、バレエ教室。」
「じゃあ、ミナが教えてあげよっか? クララの踊り。」
「うん、教えて! ネズミの王様の踊りも!」
いくちゃんはサエの手を取りながら立ち上がった。
「私はね、たくさんいるネズミたちの役しかやったことないんだ。」
ちょっとはずかしそうにそう言い、いくちゃんはサエの手を引っ張って立ち上がらせ、ネズミたちのステップを踏み始めた。それにつられて、サエの身体も自然に動き始める。
まだほんの少ししか習っていないネズミの王様の舞い。でも、先生のお手本を思い出しながら自由に、体の動くままにステップを踏む。体を動かせば動かすほど心が軽くなっていくように感じられた。
サエの演じる王様の指示に従うように、いくちゃんはネズミの踊りを合わせてくれた。その輪にクララ役のミナも加わって、まるで本当の『くるみ割り人形』の舞台のようになった。
観客はマル。うれしそうにしっぽを振って見ていたけれど、我慢しきれずに三人のもとへと走り寄り、一緒になってはね飛んだ。
シロツメクサのお花畑は笑顔と笑い声であふれ返った。
最後にはみんな思い思いにはね回り、つかれてその場に寝転がった。
いくちゃんを真ん中にして、並んであお向けになっている三人の顔を、マルは順番にのぞきこみ、みんなの頭に大きな身体を寄り添わせて横たわった。

「楽しいね! やっぱりバレエって。」
「うん。」
サエも心の底からそう思った。
どこまでも続く青い空の舞台では、雲たちが風のかなでるメロディーに合わせて軽やかに踊っている。
何の役だって踊ったら楽しいし、気持ちいい。
マルの穏やかな呼吸を感じながら、しばらくぼーっと空をながめていたら、ミナの寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃったね。」
と、いくちゃんがサエの方を見て笑った。
「うん」
サエもいくちゃんを見て笑い返した。
「先生がね、今年はサエにネズミの王様をやってもらいたい、って言ったんだ。」
ぽつりぽつりと話し始めたサエの言葉に、いくちゃんは「うん」とだけうなずいて、次の言葉を待った。
「サエしかできる子がいないから、って」
「うん」
「でも、それはうそだって思ったんだ。」
配役が決まってから、ずっと心の中でモヤモヤしていたものを少しずつはき出す。
「私にクララの役をあきらめさせるためのうそだって。」
「うん」
「でも、今おどってみてわかったよ。クララよりネズミの王様のがずっと難しいって。」
いくちゃんは笑顔のまま、だまってうなずく。
胸の中にたまっていた黒いかたまりをはき出して、サエの心は晴れ晴れと軽くなっていた。
「いくちゃん、ありがとう。」
サエの言葉にいくちゃんは一瞬だけ驚いた表情をして、そして顔をほころばせた。
「サエちゃん、花かんむりの作り方教えてあげる。」
いくちゃんは体を起こしてシロツメクサをつみ始めた。
サエも起き上がって花をつむ。
マルが少しだけ顔を持ち上げて、二人を見つめて大あくびをした。
「まずお花を三本つんで、」
いくちゃんは器用に指先を動かしながら、
「三つ編みにするんだよ。」
と、サエにお手本を示した。
その手元を見ながら、サエも真似して編んでみるけれど、すぐにほどけてしまってなかなか上手くいかない。
「どうやってんの? いくちゃん。」
いくちゃんは自分が編んでいる花かんむりを横に置くと、新たに三本シロツメクサをつみ、サエと一緒にもう一度、ゆっくり最初から編み始めた。
「最初の三本がくっついたら、また一本付け足して、」
と、いくちゃんはサエの花かんむりに新しい一本を添え、茎をくるっと回すように指で示した。
「こうやってどんどん付け足していくだけ。」
しばらくの間、二人は無言で夢中になって編み続けた。
時おりほほをなでる風と、マルの穏やかな寝息だけがこの世界にある音の全て。
「できたっ!?」
いくちゃんに助けられながらなんとか編みあがったサエの花かんむりはでこぼこで、いくちゃんの物と比べると明らかにぶかっこうだった。けれど初めて作った花かんむり。サエの心は高鳴った。
頭にのせると、ほんのり草のにおいがする。
「どおっ!?」
「お姫様みたい!」
と言ういくちゃんの頭にも花かんむりがのっている。
「いくちゃんもお姫様みたい!」
「ねぇ、花かんむり、変えっこしない?」
いくちゃんは自分の頭の花かんむりをサエにさし出した。
「えっ? 私の、でこぼこだよ。」
「サエちゃんのが欲しいんだ。友だちのしるしの花かんむり!」
「『友だちのしるしの花かんむり』か。それ、いいね!」
サエも自分の頭から花かんむりを取り、いくちゃんの頭にのせた。
いくちゃんもサエの頭に自分の花かんむりをのせると、
「明日もバレエ、教えてね。」
とにっこり笑った。
「うん。花かんむりつけて、一緒に踊ろうね。」
とサエもにっこり笑った。
すると、タイミングを見計らっていたように、マルがおもむろに頭を持ち上げて「ハフッ」と言った。
「そうだね、そろそろ帰らなきゃね。」
いくちゃんはマルに返事をした。
帰り道のサエの足取りは、行きとは全く違って軽かった。
花かんむりを頭にのせて、三人で『くるみ割り人形』をハミングしながら歩いた。
「そうだ! いくちゃん、」
サエが大きな声でハミングをさえぎった。
「お昼からも遊べる?」
「遊べるよ!」
「去年の発表会の動画がユーチューブにあるんだ。見せてあげる!」
「サエちゃんがクララの?」
「そう!」
「見たい、見たい!」
「ミナも見たい!」
「うん、三人で見よ。」
と、いくちゃんは言い、「楽しみー!」と大声でさけびながら走り出した。
マルがつられて走り出し、サエとミナも続いた。
下り坂を風をきって走ったら、あっという間に家につく。
「じゃあ、後でねー!」
と、大きく手を振りながら三人は別れた。
第五話はこちら↓↓↓
クララになれなかった私~青い空の舞台と、もふもふの観客~ (第五話:最終話)
姉の気をひけたけど、最後は吹っ飛ばされた秋田犬こむぎAkita Komugi Got Her Sister’s Attention… Then Got Launched
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